『天才ガロアの発想力』出ました!

新著『天才ガロアの発想力』技術評論社が、アマゾンにも入荷し、早いところでは書店にも並び始めたと思うので、とりいそぎ宣伝をば。

天才ガロアの発想力 ?対称性と群が明かす方程式の秘密? (tanQブックス)

天才ガロアの発想力 ?対称性と群が明かす方程式の秘密? (tanQブックス)

この本は、19歳で300年未解決だった数学の難問を解き、誰にもそれを理解されないまま、二十歳のある朝、オンナをめぐってピストルで決闘して命を落とした天才ガロアの発想の源をさぐった本。決闘前夜に論文の余白に遺書をしたため、その出版を親友に託した、という最期は切ないし、約束を果たした親友はすばらしすぎる。すごく泣ける。
ガロアが突き止めたのは、「なぜ、4次以下の方程式には解の公式があって、5次以上の方程式にはそれがないか」、そのからくりだ。そしてそれは、単に1つの問題を解決した、ということに終わらず、それから現在に至るまでの200年の数学の方法論を抜本的に変えるものとなったのだがらスゴイ。どういうのかというと、「群」と「体」という2つの数学的構造を行ったり来たりして定理を証明する、という画期的な方法論だったのだね。
 この本では、そのガロアのアプローチを、できるかぎり具体性を持ってイメージ化を図り、言葉を尽くした説明を試みた。そこが、類書と最も異なるとこだろうと思う。なので、買うかどうか迷ったら、まず、第2章「2次方程式ガロア理論をざっくり理解」をぱらぱらめくってみて欲しい。ここでは、中学生が習う、ルート数と2次方程式だけを使って、ガロアのアイデアをざっくりとまとめている。自分でいうのなんだけど、ここが一番斬新なとこかな。あとは、第4章で、ガロアの定理にとって最も重要な「部分群と中間体のハッセ図の対応」にあたることを、「平行四辺形、たこ形、等脚台形などの対称操作」の話に置きかえて解説している部分もすこし自慢。どちらも、基本的には、「意欲的な中学生なら理解できるぜ」を目標に書いたのであ〜る。
あとは、新しモノ好きのかた向けに、第8章で、「基本群」の導入をして、ポアンカレ予想とか被覆空間のガロア理論とかをご試食程度に解説してあるので、その辺でもお楽しみいただけるかも。
とにかく、まあ、全身全霊をこめて書いたので、是非ともひもといていただければ、と。今回は、序文をサービスいたしましょう。

              まえがき
 これから、皆さんには、200年前のフランスの少年に恋をしていただこうと思います。
 名前は、エヴァリスト・ガロアといいます。彼は、二十歳の朝、銃による決闘で命を落としました。決闘前夜に書いた遺書は、なんと一編の数学論文でした。そして、その論文で生み出された数学理論は、その後、ガロア理論と呼ばれるようになり、200年経った今でも数学を刷新し続けているのです。この本は、そんな無軌道なガロア少年が、何を夢見て、どのように新しい数学を生み出して行ったのか、その発想力に迫って行きます。
 ガロアが解いたのは300年も未解決の問題でした。結論だけ言うと、「2次、3次、4次方程式は四則計算と2乗根、3乗根などのべき根をとる操作で必ず解くことができるが、5次以上の方程式ではそうはいかない」ということです。このことを突き止めるために、ガロアは、「群論」と呼ばれる全く新しい数学を編み出したのでした。
 群とは、「動き」や「変化」から生まれる代数学で、「対称性」と深い関係があります。「対称性」とは、一言でいうと、「動かしても見た目にはわからない」という性質のことですから、「動き」や「変化」と表裏の間柄なのです。ガロアは、n次方程式のn個の解の「区別のつかなさ」を群によって表現し、方程式の解法に接近したのです。
 ガロア群論は、方程式以外でも幅広く役に立ちます。「動き」「変化」「対称性」が関わるものなら何にでも応用できる、といっても過言ではありません。したがって、その後、数学のさまざまな分野に応用されたばかりではなく、他の科学、例えば、物理学、化学、薬学、生命科学情報科学などにも応用されるようになりました。
 これまでガロア理論の解説書は何冊も刊行されていますが、本書がそれらと大きく異なるのは次の3点になります。第一に、これまでの本は、「お話だけで終わっている」か「すごく難しい」か、のいずれかだと思いますが、本書はその中間を狙いました。省略を最小限に押さえながらも、できるだけ理論のキモが明快にわかるよう工夫したつもりです。例えば、第2章の「2次方程式ガロア理論をざっくり理解」だけ読めば、急所のアイデアはすぐに納得いただけるでしょう。また、第4章では、図形の対称操作の群論を使って、とにかく抽象的なガロア理論を図形的イメージ化しました。さらに第二に、数式だけで記述せず、できるだけ言葉によって記述しました。群論ガロアの頭の中にどう芽生えたのかを考えることは、数学の外側の作業なので、日常言語が適していると思ったからです。そして第三に、最終章でガロア理論のその後の展開を解説しました。基本群に関するポアンカレ予想や被覆空間のガロア理論などで、現代数学へのインパクトをご覧いただきます。
 でも、この本で最も書きたかったことは、ガロア少年のかっこよさです。不良で、生意気で、はねっかえりで、純粋で、無軌道。かっこいい少年の全条件が揃っています。著者は、その後200年の数学を変革したガロアの発想力は、これらの奔放で反骨的な性格と無縁ではなかったと推測しているのです。
 本書でどうぞ、そんなガロアと、そして数学そのものに恋をしてくださいませ。

目次と細かい見出しは、天才ガロアの発想力―対称性と群が明かす方程式の秘密―:書籍案内|技術評論社にて。