胸キュン小説をあなたに

今回は、バレンタイン企画として、胸キュン小説を紹介しようと思う(笑)。
その前に、お約束のライブの話を少々。
先週の木曜日に、原宿のアストロホールというところで、またまた赤い公園のライブを観てきた。これで今年(しかも、一ヶ月半で)三回目である。我ながらアホかと思う。
今回は、場所が原宿ということもあり、しかも、「ファッションと音楽の融合」と銘打たれていることもあって、「客が、若い女子ばっかりだったらどうしよ、おされなイケメンばっかりだったらどうしよ、おぢさんとして浮いてしまったらやだなあ」と及び腰になって、奥さんに同伴をお願いした。しかし、それは杞憂だった。客の大半は男性。しかも、おされでない人も、おぢさんも散見された。ほっとした。赤い公園の演奏は、めちゃくちゃすばらしかったので、さっそく二週間後の渋谷クアトロのチケットも購入してしまった。このライブは、アップアップガールズ(仮)というハロプロのアイドルユニットと対バン形式なので、心配はない。きっと、客は男がたいはんだろう。いや、心配どころか、むしろ期待に胸躍る。
では、宴もたけなわ、胸キュン小説の紹介に移ろう。
紹介したいのは、中田永一氏の小説(ラノベ?)である。中田永一氏は、wikipediaによれば作家・乙一氏の別ペンネームであるようだ(乙一 - Wikipedia)、。というか、このwikipediaを読んだから、乙一氏のファンであるぼくは、中田氏の小説を買ってみたのである。
三冊読んだが、ほんとうにぶっとんだ。あまりに見事な技巧の小説であり、あまりに胸キュンなストーリーだからである。ぼくは、乙一氏の推理小説には毎回、騙され、度肝を抜かれ、熱狂的なファンなのだが(実際、日経新聞の読書欄の短期連載では、乙一氏の推理小説を紹介したぐらいだ→日経書評欄の短期連載のこと+おまけの本紹介 - hiroyukikojimaの日記)、この恋愛小説にも舌を巻いた。恋愛小説といっても、どの小説にも、一カ所だけ「トリック」が仕込まれている。それがあまりに巧妙なので、読み終わるまでは何をしようとしているのか(ぼくには)全く見破れないのである。いやあ、天才としかいいようがない。
 最初に読んだのは、『百瀬、こっちを向いて。』祥伝社文庫だ。

百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

4編の短編が収められているが、4つとも、ぼくは騙され、引っかかってしまった。それぞれに、やろうとしていることが違うからだ。気に入っているのは、一編目の表題作「百瀬、こっちを向いて。」と、4編目の「小梅が通る」。
「百瀬、こっちを向いて。」は、先輩の三角関係をごまかす片棒をかついで、一方のカノジョの偽装カレシ役を演じてしまう主人公の話。これはベタなラブコメなのだが、ぼくのようなオヤヂでもなんだかんだ楽しく読めてしまう。また、主人公が、自分に「ダメな人間」と烙印を押し、すべてから逃げがちなところもテーマとして描いていて、その痛々しさにも共感する。みごとな文体で、まるでラブコメ少女マンガのようなのだけど、ただ一つ、「百瀬」という女の子がどんな顔をしているのか想像が及ばない恨みがあった。しかし、この作品が映画化されることになり、百瀬役には、早見あかりという元ももクロの女の子が演じることになったらしく、写真をみると、なるほどこういう感じが一つのサンプルか、と思った(映画『百瀬、こっちを向いて。』公式サイト)。
「小梅が通る」もベタ・ベタのラブコメなのだが、これは、ストーリーそのものがトリックの一端になっているので、何も語らないことにしよう。
 次に読んだのは、『吉祥寺の朝日奈くん』祥伝社文庫
吉祥寺の朝日奈くん (祥伝社文庫)

吉祥寺の朝日奈くん (祥伝社文庫)

これにも4編の短編が収められているが、すべて傑作である。とりわけスゴイのは、一編目の「交換日記はじめました!」だ。単なる交換日記を、たんたんと日記文体で進めていくのかと思いきや、すぐにそうでないことがわかる。ある種、叙述ミステリーになっている部分もあるのだが、それが最終的にはポイントでないところも「やられた!」と思う。やはり、テーマは、主人公の女子の「今風なダメさかげん」。最後の最後になって、作家がこの女子を通して、若者にエールを贈っていることがわかって、泣けてしまうのである。表題作「吉祥寺の朝日奈くん」にも、驚愕のトリックが仕掛けられていて、まんまと騙されてしまった。これは映画化もされているので、DVDで観るのも良いのではないだろうか(ぼくはまだ未見)。
吉祥寺の朝日奈くん [DVD]

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しかし、この四編の中で、最も斬新なのは三編目の「三角形はこわさないでおく」だと思う。この文体には、(ラノベであるからなおさら)、惚れ惚れする。とても斬新な文体で記述されている。物書きのはしくれとして、嫉妬と妬みを感じざるを得ない。
 三冊目に読んだのは、くちびるに歌を小学館
くちびるに歌を (小学館文庫)

くちびるに歌を (小学館文庫)

これは長編なんだけど、あまりにすばらしい作品である。最後の数ページでは、本当に落涙になってしまった。読み進めながら、何かあるだろう、それは何だろう、と思いながら、最後の最後まで何を仕組んでいるのかを見抜けなかった。こういうときは、それが判明したときの泣ける度合いが数倍になる。
この長編は、長崎県五島列島の中学校を舞台にしている。基本的には、合唱部での恋愛模様のラブコメなのだが、一点だけ重要なアイテムがある。それは、主人公の一人の男子の兄が、自閉症だという設定である。この設定のために、小説全体に、独特の切なさが醸し出されているのだ。そういう意味で、この物語は、乙一版「ギルバート・グレープ」だと言っていい。ここで、「ギルバート・グレープ」というのは、ハルストレム監督の映画で、ジョニー・デップの主演。少年の日の(美形だった頃の)レオナルド・ディカプリオが知的障害の弟を演じたことで話題になった作品である。この映画(とくに、ディカプリオの障害の演技)は必見だと思う。
ギルバート・グレイプ [DVD]

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 さて、中田氏の作品で、ぼくは年末年始ずっと胸キュンな気分でいられた。五十路すぎての恋愛小説というのもおつなものである。ただ、これらの小説を読むと、ぼくが中高生の頃に繰り広げられていた恋愛とは根本的に違う感じがするなあ、という感慨がある。やはり、今の若者たちの世界なんじゃなかろうか。小説の内部だけからそう思うのではなく、大学でのぼくのゼミ生の恋愛話などを聞いていても同じ潮流を感じる。いや、ぼくが中高生だったときも同じで、単にぼくがそういう世界観から逸脱していただけなのかもしれないが。
 さて、最後に、赤い公園の原宿ライブの話を付け加えよう。
 今回のライブは、バレンタインデー前日ということがあって、特別仕様になっていた。つまり、小芝居形式で、演奏が進んでいくのである。具体的には、ボーカルの佐藤千明さんが、曲の前に、簡単な台詞をいうのだ。ストーリーは、主人公の女子が、告白して、うまくいって、つきあって、破局する・・・というもの。なかなか笑えてよかった。曲の演奏そのものは相変わらずの迫力であった。ボーカルの佐藤さんのトーンコントロールと表現力のすばらしさ、ベースの藤本ひかりさんの対旋律のかっこよさ、ドラムの歌川菜穂さんの複雑なリズムのみごとな叩きっぷり、そして、ギターの津野米咲さんのノイジーで不可思議なギターリフのすごさ、どれをとってもやみつきになるバンドだ。ホールが狭かったこともあって、今回は、彼女たちのご尊顔をしげしげと眺めることができた。とりわけ、津野さんの表情をとくと拝見した。すごくかわいかった。実は、アルバム「公園デビュー」のおまけDVDに、ライブのメイキングが収録されていて、そこでの津野さんの表情は、「パンク少女」そのものである。ぼくは、パンク少女っぽい顔はとても好みなので、それも良かったのだが、今回のライブでの(偽りの?)にっこり笑顔もキュートで好きである。
 そんなこんなで、今回は、全体にバレンタインぽくまとめてみた。