追悼! ギタリスト・小川銀次

  *追記: 「Zappaが教えてくれたこと」のライブ演奏をyoutubeで見つけたので、追記した(8/24)。
今月の初めに、ギタリストの小川銀次さん(小川銀次 - Wikipedia)が永眠された。たくさんライブに通っただけに、とても残念で悲しい。58歳というのは若すぎるし、自分の年齢と近いこともあって、余計ショックだった。小川銀次さんは、RCサクセションの初期のギタリストで、ぼく自身はもちろん、RCは世代だし、大好きだったバンドだったけど、それとは無関係に銀次さんのギターのファンになった。銀次さんは、あまりライブをしない人で、ソロライブと小川銀次バンドというスリーピースのユニットで吉祥寺のシルバーエレファントで演奏活動をしていた。ぼくは、銀次さんを見るために、よくシルエレに行っていた。
銀次さんの十八番の曲にSky-highという曲がある。ライブでのMCによるとこの曲は、(確か)天に召されたミュージシャンに捧げた曲、というコンセプトだった。今度は、銀次さん自身が、天に召されてしまった。皆さんも是非、youtubeで、この曲を聴いて、追悼してあげてほしい。
Sky-High 小川銀次BANDライブ - YouTube
 銀次さんのライブを初めて観たのは、このブログでも何回か紹介したSoh-band(SOH BAND - Wikipedia)のリーダーでドラマーだった宗修司さんが亡くなったときの追悼ライブだった。
ステージに銀次さんが出てきたときは、正直、「フォークのおっさんが来た」なんて思ってしまった。顔と服装がまるでそうだったからだ。だから、アコギを抱えて、椅子に腰掛けたときは、ぼくは完全に気を抜いていて、「さて、酒でも飲んでるかな」的気分だった。でも、演奏が始まったら、ぶっとんでしまった。いわゆるフリッパートロニクス的な一人多重演奏が始まったからだった。フリッパートロニクスとは、キング・クリムゾンのギタリスト・ロバート・フリップが開発したソロ演奏のための装置。詳しくは知らないが、循環するオープンリールのテープに、今弾いたばかりのギターのリフを録音し、そのリフを循環的に出しながら、その上にどんどん音を重ねていく、というもの。たった一人で即興で伴奏もソロも弾けるというとんでもないアイデアのマシンなのだ。今では、サンプリング・シンセがあって、こういう演奏が簡単にできるようになったけど、フリップに肉薄する演奏をできるギタリストが日本にいた、というのはぼくにとって驚愕だった。
銀次さんは、その多重・即興演奏で、「10枚の手紙」という曲を弾いた。これを選んだのは、宗さんにドラムを考えてもらった曲だから、とMCした。ものすごく美しくて、カッコイイ曲で、ぼくはすぐに聞き惚れてしまった。演奏の途中で、銀次さんが、合掌するのを観たら、ぼくの目には怒濤のように涙が溢れてしまった。そのあと、バンド形式になって、「嵐の前の不思議な風」というのを演奏した。これは宗さんが好きだった曲だったそうだ。この曲も、驚くほどカッコイイ曲だった。
それでぼくは、もう、銀次さんのライブに行くしかない、となって、次の小川銀次バンドに足を運んだ。永井敏己さんがベース、山口鷹さんがドラム、というバカテクのユニットだった。そこで目撃したのは、信じられないような演奏だった。日本のギタリストで、こんなギターを弾ける人がいたのか、とぼくはそれまでの無知を激しく後悔した。銀次さんのギターは、ぼくが敬愛してやまない、ロバート・フリップフランク・ザッパを彷彿とさせるものだったからだ。ぼくは虜になってしまって、ライブにはできる限り足を運ぶようにした。
 銀次さんには、一人で制作した13枚のアルバムがある。 Private Diaryと題されていて、その名の通り、制作年月日がアルバム・タイトルになっている。ドラムは打ち込みで、ベースとギターは銀次さんが弾いているのだと思う。ぼくは、全アルバムを持っているのだけど、その曲の多彩さには本当に驚く。そして、いくつかの曲は、亡くなったギタリストに捧げたものになっていて、それを聴くと泣けてきてしまう。曲やリフをコピーしているのではなく、いわば、その「思想」「コンセプト」を銀次さんなりに再現しているからだ。例えば、「Zappaが笑った」とか「Zappaがおしえてくれたこと」という曲では、ザッパなら確かにこういうソロを弾くだろう、というリフの連続で落涙ものである。
Zappaがおしえてくれた事 (LIVE) Ginji Ogawa the Orchestra 小川銀次ミニライブ - YouTube即興多重演奏(フリッパートロニックスっぽいの)でライブを見つけたので追加した。

また、「Roy Buchananに捧ぐ!」なんかは、本当にブギャナンにしか弾けなかったような泣きのブルース・ギターを弾きまくってる。アルバム未収録(たぶん)だけど「出来ることと.....!???! 」という曲なんかも、ブギャナンっぽいな、と思う。
出来ることと.....!???! 小川銀次BANDライブ - YouTube
あと、ジミヘンに捧げた、「Purple Wind」という曲もある。ジミヘンは、あまりに孤高のギタリストで、ジミヘンっぽいギターを弾けるギタリストをほとんど知らない。銀次さんはその一人である。知っている範囲ではあと一人。スティーヴ・ヴァイが前回の来日ライブで、ジミヘンばりの曲をやってくれて、ぶっとんだものだった。
Purple-WIND 小川銀次BANDライブ - YouTube
 実は、小川銀次バンドのライブには、2年ほど行けてなかった。興味がなくなったわけではなく、年に2〜3回しかないので、たまたま用が重なってしまっていたのだ。それで、ちょっと前に、今年のライブはいつあるのだろう、と銀次さんのHP(Ginji Ogawa Official Site)に行ってみて、日記を読んで、衝撃の事実を知ることとなった。銀次さんは、末期のガンにおかされていて、闘病中だったのだ。それから毎日、日記を読んだ。読んで、いつも泣いていた。だって、銀次さんは、ギターを弾きたい一心で、抗がん剤の治療を拒否したからだ。「抗がん剤を使うと、ここまで弾けるようになった俺のギターが弾けなくなる」という理由だった。自分のギター・プレーができないくらいなら死を選ぶことも辞さない、という強い決意だったのだ。それほどまでにギターを愛し、ギターの訓練をし(闘病中も5時間とかギターを練習してた)、ギター以外のことは考えない銀次さんがいとおしくなった。自分はどうなるだろう、と自問自答した。いま、もしも、末期ガンと宣告されたら、自分は何をするだろうか、と。自分にそれほど愛し、執着する何かがあるだろうか、と。
 それほどの執念と気合いと愛によって作れた13枚のアルバムを、今からでも遅くない、 Private Diaryを買って聴いてみてほしい。あなたがギターファンなら、あるいは、プログレファンなら、絶対に損はないと思う。

Private Diary(プライベート・ダイアリー)1996.7

Private Diary(プライベート・ダイアリー)1996.7

ぼくとして、本当は、小川銀次バンドで、永井敏己さん、山口鷹さんと、アルバムを作って欲しかった。ライブ音源があるなら、なんとかCD化してくれれば、と思う。
 いつかのライブで、銀次さんは、山口鷹さんが当時のELTのサポート・ドラマーであったことをおちょくって、「山口鷹は、今度、持田香織と結婚するんだぜ」というしょーもない冗談をMCした。そのモッチーも最近、結婚した。今、ライブをしたら、銀次さんがどういうギャグをかますか、それを考えると心が痛くなる。
 でも、銀次さんの魂は、13枚のアルバムの中に生きている。ぼくは、このたくさんの曲たちで、銀次さんに会うことができる。それこそ、銀次さんの望みであり、最期までギタリストであったことへの報いなんだと思う。