テレ東ドラマ『電子の標的2』に協力をしました

 昨日、テレビ東京系で放映された水曜ミステリー9『電子の標的2』に、数学監修という立場で、協力した。
水曜ミステリー9:テレビ東京

これは、サスペンススタイルのミステリー物の2時間ドラマ。去年に放映された『電子の標的』の続編にあたる作品。
本当は、事前に告知して、このブログの読者さんたちには是非、観てもらいたかったんだけど、事前にスタッフさんから放映日の連絡がなかったから、それができなかった(いまだにない 実は、スタッフも知らされてなかったらしい)。連絡がないのは、ぼくが関与した部分がカットされたから、という可能性もあったから、テレビのcmで放映日を知ったけど、告知はしなかった。実際には、ぼくが関与した部分はちゃんと撮影されていたし、エンディングのスタッフ・ロールには、ぼくの名前が「数学監修」としてクレジットされていた。テレ朝『相棒』に協力したとき(ぼくが監修した「相棒」は来週放送予定! - hiroyukikojimaの日記とかドラマ「相棒」シーズン12の第2話「殺人の定理」 - hiroyukikojimaの日記参照)では、ちゃんと事前に放映日の連絡をもらえたのにな、全く残念だ。
 さて、ぼくがどういう数学監修をやったか、ということについては、実はあまり詳しくは語れない。なぜかというと、物語のプロット上、重要なことに関連している部分があるからだ。(ご覧になったかたは、ああ、あれか、とピンと来ると思う)。録画しておいて、これからご覧になる人もおられるだろうし、再放送を楽しみに待つ人もおられるだろうから、ネタバレをしてその興味をそぐことは忍びない。
なので、当たり障りのない部分だけについてだけ書き留めておく。
今回、ぼくの依頼された仕事は、数学の問題と答えを20題分!、用意することだ。それも、できれば、「素数に関する問題」。そのうち、1題の除く19題は、数学科とは別分野の大学生たちが、自力でなんとかかんとか解けるレベルのもの。そして、1題だけ、簡単には解けない超難問。これらの問題は、研究室の掲示板に貼り付ける形で、全部が映っていた。ぼくはワープロで解答を書いたけど、学生さんたちが解いた、という設定になっているので、手書きの解答になっていた。スタッフさんたちが手分けして書き写したんだと思う。ご苦労様。
いやあ、素数に関する問題と答えを20題も用意するのは、正直、大変な仕事だった。難しくていいならいくらでもあるけど、数学科以外の理系の大学生が解けるとなると、そんなにはストックがない。全部を素数ジャンルにするのは無理だったので、6題は素数じゃない数論の問題で許してもらった。それでも、14題は素数ジャンルにしたので、我ながら、素数マニアだなあ、と思う。笑。
いろいろ、集めているさなか、タイムリーにも、親友の数学者から面白い問題を出題されたので、渡りに船、とばかり投入した。次のような問題である。

nを2以上の整数とする。このとき、nの最小の素因数は、(2のn乗)−1の最小の素因数より小さいことを証明せよ。

イデアが閃きさえすれば、簡単に証明できるので、強者はチャレンジしてみてほしい(但し、数論の初歩的定理の知識は必要)。実際、ぼくは、10日ほどこねくり回したあげく、無理だ、と諦めようとしたときに、急にとっかかりを掴んで、うまく解決できた。解答は、たぶん、『電子の標的2』の当該のシーンを静止画面にして、よ〜く観れば、映ってるかもしれないので、それを解読していただければ、と思う(まじか)。
最も苦労したのは、もちろん、1題だけの超難問。ドラマの中で、問題[205]と設定されているものだ。これは、監督さんから、「解答の形式」の指定、という無茶な注文があったので、非常に苦労した。あまり多くを語れないので、ワンポイントだけヒントを書き留めておくが、問題[205]の解答は、数学者ラマヌジャンの発見した公式である。
 このドラマの数学監修を引き受けたのは、シナリオに興味を持ったからではない。実は、シナリオは、ほんのわずか数カ所しか見せてもらっていない。それでも引き受けたのは、キャストの中に、面識のある人がいたからだ。それは、手塚とおるさん(写真の後ろ側、一番右)。昔、演劇をよく観ていた頃、偶然、劇作家の坂手洋二さん(劇団・燐光群を主催)と知り合いになり、何度か一緒に飲んだ経験がある。とりわけ、坂手さんのお芝居を観たあと、打ち上げに参加させていただいた。そんな中の一回だけ、出演者だった手塚さんとご一緒させていただいたことがあった。坂手さんは、手塚さんにぼくのことを、「数学の人」と紹介してくださった。でも、歓談は、たった10分のことだった。今でも覚えているが、急に手塚さんの携帯電話に呼び出しがあり、それは劇作家の野田秀樹さんから呼び出しで、手塚さんはすぐに店を移ってしまったのだ。
でも、10分とはいえ、面識のある手塚さんがキャストだということで、ぼくはこの仕事を引き受けることにした。結果的に、引き受けてよかったと思う。仕上がったドラマは、とても迫力があるスリリングなサスペンスになっており、こういうドラマに数分間とは言え、自分の造形物が映し出され、スタッフロールに自分の名前がクレジットされるのは誇らしいことだからだ。
 転んでもタダでは起きないぼくとしては、今回やった作業を別のところでも活用することにした。それは、連載を持っている受験雑誌『高校への数学』東京出版で、今回作成した20問の問題を使い回すことだ。笑。それで、今刊行されている4月号から、「素数の魅力」と題して、一年間の連載を書くことにしたのだ。興味あるかたは、そちらの連載のほうも、ご贔屓にしてくだされ。

高校への数学 2016年 04 月号 [雑誌]

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