みんな、こういう理系の大学教員のこと、どう思う?

[追記:8/21] いつになく話題になったようなので、少し補足する。ぼくの本からの引用で、前回は省略した部分を、書き加える。どのくらい親切に書いているかを知ってもらえば、こやつの「信じられなさ」が浮き立つと思う。(それに拙著の販促にもなると思うし)。
あと、ぼくが最も問題にしているのは、このメール文からわかるように、この教員が、自分がわからないことを理解する努力を怠ること。こういう人は入試の採点で、きっと、大変なことをやらかす。2次試験の記述問題は、通常、2人以上で行うと思うけど、もう一人の採点者が読み間違えた採点をこの教員はそのままスルーする可能性が高い(理解できないことを、掘り下げる努力を怠るから)。

今日、とある大学教員から、拙著『世界は素数でできている』角川新書に対して、質問とも批判ともつかないメールがきた。
もちろん、知らない人だし、面識もない。
この人、国立大学の教員のようだ。しかも、専門は物理のようだ。
なりすましもありうるかもしれないが、メールアドレスのアットマークのあとに、ドメインとして大学名が入っているし、アットマークの前は名字そのものだから、ハッキングされたのでなければ、本人だろう。
あまりに唖然としたので、文面を晒すことにする。その人が文句をつけてきたのは、「素数が無限にある」という証明の部分だ。ぼくの記述のすべてを引用すると長くなるので、ポイントになるところだけを引用する。

『世界は素数でできている』(35-37ページ)
ピタゴラスによる証明は、「素数が無限個ある」ことばかりではなく、「どうやって無限個の素数を見つけるのか」も与えられるので、非常に優れた証明方法でした。
 まず、最初の素数2があります。
次に、2+1を計算します。これは3で、2とは異なる素数です。
その次は、今得られている2個の素数、2と3、を掛け合わせて1を加えます。2×3+1=7ができます。大事なことは、この数が、掛け合わせた2でも3でも割り切れないことです。なぜなら、2×3は2の倍数でかつ3の倍数ですから、1を加えると2の倍数からずれ、3の倍数からもずれます。したがって、この7は、実際に割り算しなくても、2でも3でも割り切れない、とわかるわけです。ということは、7の約数には2、3以外の新しい素数が含まれるはずです。つまり、2とも3とも異なる新しい素数が見つかります。実際、7自身がその新しい素数にあたります。
もう一歩進みましょう。今、見つかった三つの素数、2と3と7を掛け合わせて1を加えます。2×3×7+1=43ができます。2と3と7の積に1を加えているので、この43は2の倍数とも3の倍数とも7の倍数ともずれています。ですから、43の約数には、2、3、7以外の素数が含まれるはずです。それが43自身です。これで、4個の素数、2と3と7と43が見つかりました。
もう一回だけやってみます。今までに求められた4個の素数、2と3と7と43を掛け合わせて1を加えましょう。
2×3×7×43+1=1807
今までと同じ議論から、この1807の約数には2、3、7、43以外の素数が含まれます。この場合は、これまでと異なり、1807は素数ではありません。2、3、・・・で順に割っていくと、13で初めて割り切れることがわかり、素数13が見つかります。今までに求められている4個の素数とは異なる新しい素数13となります。
この手続きを継続すれば、いくらでも新しい素数が見つかることは明らかでしょう。このシステムをきちんと書くと次のようになります。
(i)素数2からスタートする。
(ii)既に見つかっている素数をすべて掛け、1を加え、できた数の約数のうち、1より大きい最小の約数を求める。それが新しい素数を与える。
(iii)新しく見つかった素数をリストに加え、(ii)に進む。

この前には、このアルゴリズムを具体的に5回やってみせて、素数2, 3, 7, 43, 13を導出して見せている。
さて、これに関して、そやつのクレームは次だ。メールからそのままコピペする。

先ほど少し苦労したのは、ピタゴラス素数は無限にあるという定理の部分です。
知られている素数の全部の積をとって1を加えるわけですが、結果が奇数ならそれ自身が
新たな素数になる気はしますが、実はそうでもないことが例として示してあります。
これ自体、不思議ですね。
それ以上に、結果が偶数になることはないのでしょうか?裏紙を使って少し計算すれば
何か分かりそうですが、新書の読書でそこまではしたくない気もします。暗算で
理解できないと電車での読書等には向かない気もします。仮に偶数になった場合、
2で割った後、最小の約数が既存の素数とかぶらないかどうかは自明ではないように
思います。

もう一度言うよ、これ、国立大学の理系の教員だよ。しかも、専門は物理だよ。
こやつ、2に自然数を掛けて1を足すと偶数になることがある、って言ってるよ。でも、計算してみる気はないんだって。そして、その程度の計算も新書には向かないんだって。そして、こやつは、2×自然数が暗算でできないんだって。そもそも、このアルゴリズムにどうして奇数・偶数が関係するわけ?そんな数学力で、ほんとに物理やれてんの?
しかもだな、仮に偶数が出てきたとして、なぜ1より大きい最小の約数2をスルーするんですかね?アルゴリズムでは、2を素数に加えて、次に進むってのがわかんないのかな。そんで、既存の素数を全部掛けて1を足すと、その中の既存の素数を約数に持つことがないのが、「自明ではないように思います。」なんだって。まあ、この点は、一般の読者には少し不親切かもしれないが(2と3を掛けて1を足すと2の倍数からも3の倍数からもずれることは、前段階の具体例のところで説明して、直観的にわかってもらうようにしたのだ)。こういうやつの「自明」っていったいどのレベルをいうんでしょうか。
ハッキリ言って、小学生低学年程度の知性だと思う。ダメおしにもう一度言うよ。こやつ、国立大学の物理の教員なんだよ。
こういう教員が、2次試験の物理や数学の答案をちゃんと採点できるのか、ものすごく心配になる。そして、こういう教員の研究室に入る学生も不憫に思う。公共の利益のためには、大学名と教員名を晒したほうがいいのかもしれないけど、今回のエントリーではやめておく(次回のエントリーでさらす可能性はある。その前に 友人の物理学者たちから評判とか業績とか聞いてみるつもり)。
何より腹が立つのは、こやつが、なんでメールを出してきたか、その意味がわからないこと。自分で計算する気はない。じっくり考える気はない。参考文献にあたって調べる気もない。そういう最低限の努力もしないで、思いつきで面識もない著者にメールを出して、批判したり腐したりする。これで、研究者の資格ありますか? 教育者と言えるんですかね?

この本が、国立大学の理系の教員にも読みこなせないとわかって、正直、頭を抱えている。まあ、こやつが例外的に○○な物理学者だと考えるほうがいいのだろう。ぼくの友人の物理学者は、みんな、とんでもなく数学ができる。実際、量子物理についての記述は、親友の物理学者・加藤岳生くんに査読してもらった。彼は、ぼくの数倍、数学が出来る人だ。声を大にして言いたいが、ちゃんとした国語力と、人をばかにしないで、理解しようと努力する態度があれば、ちゃんと読めると思う。わからなくて、でもどうしてもわかりたいところがあったら、参考文献にあたって追加的に勉強すればよいと思う。そのために、かなり綿密な参考文献をつけてある。