WEBRONZAのレギュラー筆者になりました

 今月から、朝日新聞社WEBRONZAのレギュラー筆者に就任した。二ヶ月おきぐらいに投稿するとのこと。
すでに、二回論考を投稿したので、リンクをはっておく。購読している人は是非、読んでほしい。
3月の投稿
高校数学での統計学必修化は間違っている - 小島寛之|WEBRONZA - 朝日新聞社の言論サイト
4月の投稿
アベノミクスの目玉、異次元緩和政策の問題点 - 小島寛之|WEBRONZA - 朝日新聞社の言論サイト
 
これだけでは何なので、少し近況も書いておこう。
現在は、次に刊行する本を執筆している。タイトルは未定だけど、ビットコインブロックチェーン(分散型台帳)に関する本だ。
ビットコインというのはネット上のお金のことで、最近では連日、世間を賑わしている。ビットコインという技術は、Satoshi Nakamotoという匿名の人物がアップロードした論文によって発明されたものだ。コピペなどによる偽造や、二重支払いなどの不正な取引が、ほとんど不可能なように工夫されている。それを可能にしたのが、ブロックチェーンという技術なのである。ブロックチェーンは、数理暗号という数学的な技術と、演算量証明という経済学的な技術(動機付け)によって成立している。やられてみると、実に見事な工夫である。
ブロックチェーンのポイントは、中央集権的な権威とか、権力とかが不要なことだ。取引や信用の付与を分散的に可能にするのである。その巧みな仕組みから、ビットコインなどの暗号通貨以外にも応用することができる。匿名の掲示板とか、音楽配信とか、自家発電で作った電気の販売とか、選挙の投票などだ。きっと、あと十年くらいのうちに、とんでもない変化を社会にもたらすことになるだろう。
 ビットコインのことを執筆するにあたって、とても役に立った本を紹介しよう。ケネス・S・ロゴフ『現金の呪い』日経BPだ。

著者のロゴフは、マクロ経済学の重鎮で、業績の高い学者である。本書では、「紙幣を廃止すべし」という実に過激な主張をしている。なぜかというと、紙幣、特に高額紙幣は地下経済で悪用されているだけだから、ということなのだ。
本書は、貨幣の歴史の本としても読める。また、紙幣がどんな経済の中で流通しているかもデータ的にわかる。シニョレッジ(通貨発行益)がいったい何かということも理解できる。さらには、マイナス金利政策やインフレ目標の意味を知るのにもよい。
その上で、デジタル通貨、すなわち、ビットコインなどの暗号通貨についても先見の明を発揮している。暗号通貨こそ、紙幣の廃止に最も有力なツールだからだ。でも、残念ながら、ロゴフはそう考えていない。その部分を少し引用しよう。

分散型台帳技術が保証する先端的なセキュリティや暗号通貨に埋め込まれて天才的なアルゴリズムは、掛け値なしにすばらしい。それは十分に認めるが、ビットコインを始めとする暗号通貨が近い将来ドルに取って代わると考えるのは、単純すぎる。通貨革命を起こそうとした人々が過去千年間で学んだのは、このゲームで恒久的に政府を打ち負かすのはまず無理だ、ということである。というのもこれは、政府が勝つまでルールを変えられるようなゲームだからだ。こと通貨に関する限り、民間部門が政府よりうまくやる方法を考え出した場合、政府は最終的には完全に状況を理解し、最後は自分たちが勝つようにルールを決める。もし暗号通貨技術はもう止められないとわかったら、勝者(たとえば、ビットコイン3.0)は結局、政府が管理する「ベンコイン」(ベンジャミン・フランクリンにちなんだ私の命名である)の露払いで終わるだろう。(345ページ)

ロゴフはこのように、政府権力による圧力によって、暗号通貨が支配下に置かれる、と考えている。しかし、それでは、そもそもブロックチェーンの持つ分散管理システムが意味をなさない。この点については、ロゴフは予想の誤謬をおかしている、とぼくは思う。
いずれにしても本書は、とても読みやすく、刺激的で、得るものが多い本だ。読んで損はないと思う。