二つの雑誌に寄稿しています!

現在、書店に並んでいる二つの雑誌に寄稿しているので、宣伝しようと思う。

ひとつは、現代思想12月号 巨大数の世界』で、もうひとつは『現代化学12月号』だ。

現代思想 2019年12月号 特集=巨大数の世界 ―アルキメデスからグーゴロジーまで―

現代思想 2019年12月号 特集=巨大数の世界 ―アルキメデスからグーゴロジーまで―

 

 

 

現代化学 2019年 12 月号 [雑誌]

現代化学 2019年 12 月号 [雑誌]

 

 現代思想12月号 巨大数の世界』では、ぼくは「巨大な素数は世界をどう変えるか」という論考を寄せている。

この特集は、タイトル通り、「巨大数」を紹介するものだ。冒頭の討論は、鈴木真治さんという数学史家のかたとフィッシュさんという(たぶんハンドルネームの)「巨大数論」研究者の方の「有限と無限のせめぎあう場所」というものだ。

ぼくは、このフィッシュさんという方を知らなかったが、ネット通の息子に聞いたら「ネットですごく有名な人だよ」と教えてくれた。なんでも、「グラハム数」という組み合わせ数学(離散数学)を使ってとんでもなくでかい数を定義する方法を刷新して、「ふぃっしゅ数」というのを提唱したとのことだ。

なるほどぉ、とても面白い。

 ぼくはこの号で、「巨大な素数」についてのまとめを寄稿した。言うまでもないが、「巨大な素数」は、数理暗号を経由して、インターネットのセキュリティや暗号通貨の成立要件に関わっている(詳しくは、拙著『世界は素数でできている』角川新書や『暗号通貨の経済学講談社選書メチエを読んでね)。

 その原稿の中で、ぼくがこれまでの自著に書いてない新ネタとして、「ユークリッド・マリン数列」というのと、「スキューズ数」というものを解説した。

ユークリッド・マリン数列」は、ユークリッド原論の中にある「素数が無限にある」証明で提示された素数列。要約すれば、素数2からスタートして、得られた素数すべての積に1を足した数の「1より大きい最小の約数」(自動的に素因数になる)を素数リストに加えることで順次得られる数列である。数学者たちは、この「ユークリッド・マリン数列」にすべての素数が現れると予想しているが、未解決問題だ。この数列を求めるには巨大な数の素因数を求めることが必要だ。しかし、それが困難なことから、数値解析からヒントをつかむのは難しい。したがって、解決にはゼータ解析のような超越的な方法が必要だと思われる。

 一方、「1より大きい最小の約数」を「最大の素因数」に変えても「素数が無限にある」証明は可能だ。このようなプロセスで作られる素数列も「ユークリッド・マリン数列」と呼ばれるが、この数列に現れない素数は無限個あることが証明されている。本稿では、「素数5が現れない」という証明を紹介した。この証明は、高校数学での簡単なエクササイズで、しかし、ぱっと思いつくものではないので、高校の先生は是非参照して、生徒さんに出題してあげてほしい。

 「スキューズ数」とは、素数定理(素数の個数を与えたり近似したりする定理)に関連して定義される巨大数である。ぼくは、この原稿を引き受けるまで知らなかったが、編集者さんに教えてもらって、慌てて論文をダウンロードして勉強した。これは「存在はわかっているのに、実体の特定が困難な数」の一例となっている。

 本号の記事で、ぼくが個人的に面白かったのは、徳重典英さんの「大きな有限の中に現れる構造をめぐって」だ。実はこの徳重さんは(遠い昔の)知り合いだと思う。彼の最近の研究動向がわかって嬉しかった。

徳重さんの論考には、非常にエキサイティングなことがたくさん書いてあって楽しかったが、最もびっくりしたのは、次の最新の定理の紹介だ。

素数のみからなる等差数列でいくらでも長いものが存在する

この定理は、グリーンとタオが2008年に証明した。素数のみからなる等差数列については、中学生の頃から興味があったが、直近にこんな進展があったことは知らず、思わずのけぞった。しかも証明の技法は、徳重さんの解説によれば、エルゴード定理のようなある種の「ランダムネス」を利用するらしい。

さっそくグリーンとタオの論文をネットでみつけてダウンロードした。それによれば、現状、計算機数学によって発見されている最長の素数等差数列は、

56211383760397+44546738095860k;   k =0 ,1,...,22. 

の23個の素数からなる等差数列だそうだ。とても楽しい。

グリーン・タオの証明はまだ読んでいないが、がんばって読んでみたいと思っている。ちなみに、素数が等差数列を作る場合、面白い性質が知られている。すなわち、「n個の素数から成る交差がdの等差数列があるなら、dはnより小さいすべての素数で割り切れる」というものだ。実際、上記の交差d=44546738095860は、2から19までのすべての素数で割り切れる。(証明は拙著数学オリンピックに問題に見る現代数学ブルーバックスに載っているけど、残念ながら絶版。どこかの編集者さん、これを復刊しませんか?笑)

 最後に『現代化学12月号』に対する寄稿についても簡単に紹介しておこう。これは、書評だ。三冊の本を紹介しながら、統計力学に対するぼくの想いを書いた。取り上げた三冊は次である。

朝永振一郎『物理学とは何だろうか』(上巻・下巻)岩波新書

小出昭一郎『エントロピー共立出版ワンポイント双書

加藤岳生『ゼロから学ぶ統計力学講談社

 是非、書店で手に取ってみてほしい。

世界は素数でできている (角川新書)

世界は素数でできている (角川新書)

 

 

 

暗号通貨の経済学 21世紀の貨幣論 (講談社選書メチエ)

暗号通貨の経済学 21世紀の貨幣論 (講談社選書メチエ)