お酒にまつわる推理もの

また、間があいてしまった。オンライン講義に手間がかかってるだけでなく、非常勤(オンラインだけど)もやっているので、余裕がないのだ。とは言っても、Netflixで「イカゲーム」を一気観したりはしている。笑。これはめっちゃおもろいドラマだった。

本当は、

たくさんのインスパイアをもらえる熱力学の教科書 - hiroyukikojima’s blog

で紹介した、田崎さんの熱力学の教科書についてきちんとした紹介をしたいのだけど、時間と心の余裕が必要なので、また今度ね、ということにする。

 そんなわけで今日は、「お酒にまつわる推理もの」について雑談をしようと思う。(いつも雑談だけどね)。その前に音楽について、ちょっとだけ語る。

 このところ、ZTMY(ずっと真夜中でいいのに)ばかり聴いている。とりわけ、ライブ・ブルーレイ「温れ落ち度」の2枚を繰り返し観ている。何度観ても飽きがこない。ZTMYのリーダーACAねさんは、(前にも書いたけど)、「フランク・ザッパの再来」「日本のザッパ」「21世紀のザッパ」だと思うんだよね。2人の共通点を箇条書きすれば、

1. 楽曲が非常に複雑ながらそれでいてキャッチー。

2. 1曲の中に複数の曲が詰まっている構成。

3. あらゆるジャンルの音楽を取り入れてる。

4. 非常に多くの楽器を導入した編成(ZTMYでは奇妙な楽器が多く使われる)。

5. サポートメンバーが超絶技巧集団。

なんかがあげられる。違いと言えば、ACAねさんの歌詞はわけわかんない詩句だけど、ザッパのような猥歌ではなく、政治的でもないことかな。フランク・ザッパが93年に他界してから、もうこういう音楽は二度と聴けないのだろうと諦めていたけど、まさか日本の若い女の子が、新しい装いでザッパ的な音楽をやるとは想像してもいなかった(本人はこう言われると怒るかもしれんが)。長生きするといいことがある。

 さて、本題、「お酒にまつわる推理もの」に移ろう。ひとつずつ作品を紹介するけど、推理もの(ミステリー)なので、どうやったってある程度のネタバレになるので、読む人の自己責任ということで。

 1.  刑事コロンボ「別れのワイン」

これはぼくの知っている限り、ワインを扱ったミステリーでは最高の作品だと思う。犯人はワイン製造会社の取締役で、低レベルなワイン製造会社に自社を売り渡そうとする弟を殺してしまう。動機は、自分の会社のワインを誇りに思っていること。犯人は類い希なる味覚を持っており、ワインをこよなく愛している。そして、その味覚とワインへの愛が災いして、コロンボの罠にはまることになる。原題は、「ANY OLD PORT IN A STORM」で、こっちのタイトルのほうが抜群に良い。 なぜなら、最終的にポートワインが大事な役割を果たすから。ダブルミーニングでしゃれているのだ。ぼくは昔、この作品を録画したい一心で、やっと普及し始めたビデオデッキを買ったものだった。

 2. 刑事コロンボ「策謀の結末」

この犯人は、アイルランドからの移民で吟遊詩人。しかし、アイルランドのテロリストに武器を密輸出している。この犯人は、裏切りものの武器商人を抹殺してしまう。犯人はアリッシュ・ウイスキーを常飲し、しゃれた言葉遊びとユーモアを得意とする。コロンボは、彼の著作や来歴から犯人は彼だと確信し、追い詰めていく。この作品は、たぶん、ぼくの中でコロンボ作品のベスト3に入る。コロンボが犯人と意気投合しながらも、犯人のテロリスト的性向には共感しないのが胸をうつ。そして、アイリッシュウイスキーが何重にもトリックになっているのがあまりにみごとである。コロンボ屈指の作品と言っていい。

 3. 刑事コロンボ「祝砲の晩歌」

犯人は時代遅れの士官学校の校長。学校を共学に変えようとする経営者を殺害する。殺害の方法がまたすごい。祝砲の空砲を実弾と取り替え、雑巾を砲先に詰めておいて爆発させ、事故に見せかける。この作品の妙は、コロンボが生徒たちと一緒に合宿生活をしながら、生徒たちの証言をもとにして、真相に迫っていくこと。最終的には、生徒たちが密造しているリンゴ酒が犯人逮捕の鍵になる。犯人の軍人気質こそがぼろを出すポイントになる皮肉がまた切ないのである。

 4. ディック・フランシス『証拠』

フランシスの競馬シリーズの中の一冊で傑作。主人公は、競馬場でワインを売っているワイン酒屋。世捨て人のようにひっそりと生きている。けれども彼は、幼少の頃から優れた味覚を獲得しており、利き酒の天才でもある。主人公はひょんなことから、偽酒に絡む殺人事件に巻き込まれる。彼はスコッチウイスキーに混じるかすかな異物から、事件の真相に迫っていく。この作品には心底感動した。ハードボイルドタッチで、息つかせぬ展開。本当にみごとな小説だと思う。村上春樹っぽい作品。

 5. 勝鹿北星浦沢直樹マスターキートン』「シャトーラジョンシュ1944」

これはマンガで、厳密な意味ではミステリーではないが、推理的要素もあるので抜擢することにした。ドイツ軍に占領されていたラジョンシュの1944年が奇跡のブドウの年となった。そこでドイツ兵の攻撃の中、子供だった主人と使用人がドイツ兵の銃剣の刃をかいくぐって、命がけでブドウをつんで作ったビンテージワイン、シャトーラジョンシュ1944をめぐる物語。切なく胸をうつ小品だ。マスターキートンには傑作が多いが、これも屈指の一作。

 6. 相棒「殺人ワインセラー

相棒シリーズがワインを扱った作品。これは、コロンボ「別れのワイン」へのオマージュだと思ってる。佐野史郎さんが犯人を演じていて、それがあまりに名演技である。ワイン評論家やワイン通を皮肉っているのも相棒らしい。相棒には、お酒にまつわる作品が他にもいろいろあるが、これだけにしておく。

 7. Dr.House「命の重み」

ドクター・ハウスはアメリカの医療ミステリードラマで、本当に傑作揃いだ。この作品は、死刑執行が数日に迫った死刑囚が自殺をはかって危篤になるが、その動機も方法もわからない。ハウスはちょっとしたきっかけから自殺の手段を突き止める。秀逸なのは、ハウスがベッドで死にかけている死刑囚と、スコッチウィスキーを一気競争するシーン。最初、何をやっているかと思うけど、その真意を知ると驚愕する。この作品は、黒人問題と死刑制度に問題提起をしており、非常にディープな作品である。ハウスシリーズ屈指の一作と言っていい。観終わると、胸にジーンと迫るものがある。