酔いどれ日記25

今夜はブルゴーニュピノノワールを飲んでる。おつまみは柿ピー。

今回は、群論のことを書こう。

最近、群論が楽しくて仕方ない。今読んでいるのは、遠い昔に買っておいた浅野・永尾『群論』岩波全書だ。

この本は、30年以上前に買ったまま、ただただ長い間、本棚で眠っていたものだ。ぼくは学部は数学科だったから、当然、群論の講義を受講したし、大学院受験のために多少の勉強をした。でも当時はま~ったく興味を持つことができなかった。(群論の講義で、唯一記憶に残っているのは、先生がルービックキューブの群の行列表現を黒板に書いてみせたことだけだ。笑)。

それがなぜか今になって、群論をとてつもなく面白いと感じるようになったのだから、人生は摩訶不思議である。

面白いと思うようになった理由は自分でもよくわからないが、あえて探してみると、二つあるように思う。第一は、拙著『完全版 天才ガロアの発想力』技術評論社を執筆している過程で群論を再勉強したこと。ガロアの定理「5次以上の方程式には、四則計算と根号では解けないものがある」を証明するには、「群」は必須アイテムだ。とりわけ、一番の佳境のところで5次対称群(1, 2, 3, 4, 5を並べ替える操作の成す群)の特殊な性質が使われる。それは5次方程式の解の対称性を解明するためだ。それでぼくは、最も素人が理解しやすい道筋を探すために、いろいろな文献にあたったのである。これが、ぼくに、群論を身近にしたと言える。

でも、もっと大きい理由は、ぼくの専門での研究分野が「意思決定理論」という非常にマニアックな分野だ、ということであろうと思われる。とりわけ、ぼくが共同研究者と論文を書いている分野は、集合論組み合わせ論と測度論と順序集合論との合わせ技のようなものなので、とにかく「記号操作」の集大成のようなストイックな分野だ。そういうのを毎日やっているうちに、群論のような抽象的な「記号操作」の嵐を面白いと思う嗜好に変わったのかな、と思うのだ。

 「群」というは、

①つなぐことができる(結合法則)。

②変えないことができる(単位元の存在)。

③もとに戻すことができる(逆元の存在)。

で規定される数学構造のことだ(この表現は、拙著『完全版 天才ガロアの発想力』技術評論社より。詳しくは拙著を読んでくれたまえ)。こんな少ない規定で、複雑な数学構造を生み出し、豊かな定理たちを生み出すのだから、神秘そのものだと言えよう。

さて、そこで先ほどの浅野・永尾『群論』岩波全書だ。この本は、ぼくがこれまで読んだ数々の群論の教科書の中で、最もわかりやすく、そして読むのが楽しくなるように書かれている。どこが他書と一線を画すのかを端的に説明することができないのだけれど、たぶん、「目次立ての順序」、「定理の取捨選択」、「定義や定理を表現する文章」、「定理の証明の方法」、「記号法の選択」などが非常に工夫されているからではないか、と思う。

この本を読むと、群論というのが、上記の①②③という単純な仕組みのものにすぎないのに、実に多くのテーマで研究されていることがわかる。

例えば、部分群を包含関係で並べた列で、各部分群が1つ前の部分群の正規部分群となっており、かつ最後は単位元に到達する列、のことを考える。これには「ジョルダン・ヘルダーの定理」というすばらしい結果が存在する。

あるいは、与えられた群が、その部分群の直積と同型になるかどうか、なども問題として考える。これには、「クルル・レマク・シュミットの定理」という有名定理が存在している。

さらには、「p-シロー群」という発想がある。これは、有限群において要素数素数べきの部分群のことだ。「シローの定理」は、このような部分群の存在を保証してくれる。

フラッチニ部分群なんてものも考え出された。これは与えられた群のすべての極大部分群の共通集合の作る部分群のことだ。これも実に奇妙な群になることが示されている。

ガロア理論に関係するのは、可解群というもので、交換子と呼ばれる元の作る群の列と関係するものだ。そして、これがn次方程式が四則計算とべき根で解けるかどうかに本質的な役割を果たすのだ(これについても拙著参照)。

 この本を読むと、数学者たちがある数学的アイテムに関してどのように研究テーマを見つけるかが、非常にコンパクトにわかると思う。数学の受験勉強をいっぱいやれば、数学の問題を解くことにはかなりな程度熟達するだろう。しかし、それだけでは数学者にはなれまい。数学者になるには、構築されている数学的アイテムに新しいテーマを見つける力が必要だ。それが数学でのクリエイティビティを意味する。そういうことの勘所を作るのにも、本書はかなりリーゾナブルな貢献をしてくれるのではないか、と思う。

最後にいつものように販促をしよう。本書を読む前に、とりあえず、拙著『完全版 天才ガロアの発想力』を読んでおくと、効き目倍増になること請け合いなんだぞ。