啓文堂新書大賞の候補作に選ばれちゃいました!

  *追記 啓文堂書店・明大前店で撮ってきた写真を追加しました!(6月13日)
 拙著が、啓文堂書店が主催する「啓文堂新書大賞」の今年の候補作の一つに選出された。それは、『数学的決断の技術』朝日新書である。候補作は12冊あり、それを6月いっぱいフェアをして、売上1位の新書を大賞として選出し、二ヶ月間プッシュの販促展開をしてくれるのだそうだ。
まだ、候補作のウェブ発表がなされていないようなので、なされたら、当エントリーにリンクを貼ろうと思う。2015年の候補作は、2015年 新書大賞 候補作品が決まりました | 啓文堂書店でわかる。前から、拙著『数学的決断の技術』朝日新書を買おうかな、という計画を持っておられたかたは、他の書店ではなく、是非とも啓文堂、購入していただければありがたいと思う。この本について、一言でキャッチコピーするなら、
「あなたの失敗はあなたの決め方の癖のせい。でも、それを知れば強みに変わる」
ということである(啓文堂で購入してほしいので、amazonにはリンクは貼らない。笑)。

↓明大前店に行ってみたら、ぼくの書いたミニ色紙が展示され、ポップもたくさんあったので、写真を撮ってきちゃいました!一番下の段がぼくの新書で、中央のポップの左横にあるのが、ぼくの直筆色紙でございます。買うつもりの方は、是非とも、明大前店でどうぞ(笑)!

 実は今日、昼飯にインド料理を食いに行く、という名目でつれあいと出かけて、最寄り駅の啓文堂にフェアを見に行ってきた。やってたやってた。みんな、ポップとかついて、ポップ以外の「なるほど、そんな手があるのか!」という新手の売り込みもあって、がんばってた。(我が本のポップがなかったじょ>編集者さんへの業務連絡)。啓文堂は、ぼくが通勤に利用している京王線の駅にはかなりたくさんあって、非常になじみ深い書店である。正直、文庫・新書・マンガ・雑誌は、この書店で購入することが非常に多い。そういう書店の賞にノミネートされたのは、とても嬉しく、光栄なことだ。
で、偵察という感じで、他の候補作12冊をじっくりと眺めてきた。どれも強敵、正直、売上では勝てる自信が全くない。つれあいと二人で、ぼくのを除く11冊について三連単で予想を述べ合った(笑)。売上で競う自信はないが、内容だったら、どの本にも引けを取らない自信がある。とりわけこの本、『数学的決断の技術』朝日新書は、ぼくにとって愛着の大きい本だからだ。これは、ぼくが専門としている(投稿論文を書いている)意思決定理論の紹介の書であり、また、ぼくが経済学を研究しているモチベーションと密接に関係する内容の本だからだ。
 ぼくは、書籍では主に、数学の本を書いている。もちろん、すごい情熱を持って、苦心惨憺、悪戦苦闘しながら書いていることは間違いない。しかし、数学はぼくの専門でなく、あくまで啓蒙家の立場から、愛好者に向けて、また、少年少女に向けて書いている。そこには、数学に対する価値判断や大仰な方向付けや誘導の気持ちは全くない。けれど、意思決定理論は、本業であり、(こういう言い方は適切でないかもしれないが)ある種の「使命感」を持って、ライフワークとして研究しているものである。だから、意思決定理論についての書籍を書くとき、ぼくは「本気に」ならざるを得ない。そういう意味で、『数学的決断の技術』朝日新書は、真剣勝負の、真心と誠意を込めた、専門家としての本なのだ。そういう本が、書店の店員さんたちに選出された、というのは、とても誇らしく、また、感慨深いことである。
 意思決定理論というのは、人々が、経済行動を選択するときのある種の「癖」のようなものを合理的に説明しよう、という研究である。例えば、確率的に収益が変わる選択肢に直面したとき、どの選択肢を選ぶべきかについて、数学的に考えるなら「期待値」(収益に確率を掛けて合計したもの)を基準にするのが自然だとされる。一方、いろいろな事例検証や実験から、人々は必ずしも期待値を評価基準としていないことがわかっている。人々はなぜ、期待値から離脱するのか。それを「人間の不合理性」に帰着させることは簡単だけど、それでは得るものも発展性もない。意思決定理論は、非期待値的行動を「不合理だからさ」とせず、そこになんらかの正当性を見いだそうとするのである。ぼくは、それら一連の研究を学ぶことで、「人間の業」とか「慈しみ」とか「愛くるしさ」とか「生命体として良く出来ている面」とかを知ることになった。そして、なにより、「人間社会がもつ不思議な摂理」というものに近づくための重要な道具になる、という予感がするのである。
 そんな相当な意気込みや力みを持ってこの本を書いた。しかし、そういう意気込みや力みが空回りすることなく、一般の人にも興味が持てるような内容に仕上がったのは、編集者さんの才覚のおかげだ。彼女と話し合ううちに、ぼくは、意思決定理論の成果の中に、日常生活の中で活かせるような考え方がたくさんあることに気がついた。
 例えば、人を動かす大きな誘因となるのは「サプライズ」である。これは誰も納得するに違いない。人は、何かの変動があっても、想定内であれば、そんなに揺り動かされることはない。それが想定外のサプライズをもたらしたとき、人々は自分の選択を変更する可能性が高い。これは、恋愛から、仕事、グッズの購入から株式投資までに成り立つ法則だ。誰もが、友人たちからの誕生日のサプライズ・プレゼントに涙ぐんだ経験があるだろう。この「サプライズ」について、シャックルという(ケインズ派の)経済学者が意思決定理論の立場からの研究を発表している。本書では、それを参考にしながら、「サプライズ」の発想について言及している。
 もう一つ、「後悔」は、意思決定の重要な要因を与える。「後悔」とは、選択が終わったあとに、自分の選択とその結果を振り返って行われる行為だが、通常の意思決定理論では無視される。通常の意思決定理論では、選択は事前の検討だけに意味があり、事後の帰結は無視するからである。しかし、人々は、未来に自分をおいて、そこでの「後悔」を想像しながら、事前の意思決定をすることがありうる。そうなると、意思決定は、過去・現在・未来の混濁した、時空間の歪んだものとなる。この「後悔」を意思決定の枠組みに取り込んだのが、ベイズ統計の復活の立役者であったサベージという学者だった。本書では、この「後悔」という現象についても、あれこれと議論している。
 このような、「サプライズ」、「後悔」、「最悪の結果を気にする」、「ジンクスをかつぐ」、「無謀な夢を追う」などの決め方の癖について、どれをも否定せずに、その正当化を与えるのがこの本である。自分がいつも間違った選択をしてしまうのはなぜなんだろう、と、くよくよしたり、イライラしたりする人は、是非とも、啓文堂にて、本書を手にとってみてほしい。