ビットコインの元論文の解説+抄訳を公開しました。

まず、前々回のエントリー

宇沢先生の思想について講演をします。 - hiroyukikojima’s blog

で告知した来週の講演会のことを繰り返しておこう。

タイトル:宇沢弘文の思想~資本主義に代わる社会システム

日時:2019年2月15日(金)19:00-21:00(開場18:40)

会場:東京大学 本郷キャンパス/東洋文化研究所 3F大会議室

詳しくは、

第28回資本主義の教養学講演会 | PFC Insights

でどうぞ。

さて、今回のエントリーだ。

拙著『暗号通貨の経済学 21世紀の貨幣論講談社選書メチエの刊行のタイミングで、ビットコインの元論文となったサトシ・ナカモトの論文

 Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System(2008)   Satoshi Nakamoto

の解説+抄訳を、現代ビジネスというWEBマガジンで公開した。

gendai.ismedia.jp

これはビットコインの仕組みをQ&A形式で解説した上、論文の該当する部分の抄訳を付け加えたものだ。

 これを書くことになった経緯を少しお話しよう。

実は、担当編集者は、この論文の全訳を新著『暗号通貨の経済学』に収録したいと考えた。それで、この論文に著作権があるかどうかについて会社と話し合った。出版社側からは、たとえサトシ・ナカモトが著作権を放棄していたにしても、それが明記されていない限りは著作権の問題に抵触する可能性がある、という返答だった。それで担当編集者は、本に収録することはあきらめ、講談社のWEBで公開する方針に切り替えた。

 担当編集者はメディアとして「現代ビジネス」を選んだのだけれど、そこでぼくは、公開に関して迷うことになった。その理由は、サトシ・ナカモト論文が無料で公開され、そこで提示されたビットコインというソフト・ウエアもオープンソースとなっているからだ。

 ぼくは拙著の中で、オープンソース文化、というか、オープンソース思想について、(プロプライエタリとの対比において)、共感するような主張をしている。にもかかわらず、自分がサトシ・ナカモトの論文を(販促という)営利目的で利用することに違和感があったのだ。

 それで、担当編集者と議論をすることになった。いったんは「現代ビジネス」をやめて、このブログに公開したらいいんじゃないか、とも考えた。でも、ちょうどその頃に、坂井豊貴さんの新著のプルーフ版をいただいた。(レビューは↓)

坂井豊貴『暗号通貨vs.国家』SB新書は、めっちゃ面白い! - hiroyukikojima’s blog

この本のあとがきに坂井さんは次のように書いている。

サトシやビットコインに関する記録や情報はネット上に多くある。だがそれらは散逸しているうえ、真偽の判定が必ずしも容易ではない。信頼できそうな情報でも、書き手が匿名だったり不明だったりする。多くのウェブサイトで同じことが書かれている、というのは信頼する理由にならない。コピペサイトが多々あるからだ。電子的な贋金づくりであるダブルスペンディングの防止が容易でないゆえんである。

この坂井さんの考えは、担当編集者の考えと全く同じだった。それでぼくは、自分による解説と抄訳を「現代ビジネス」で公開することに意義があると考えを改めた。少なくとも、ぼくの知識や学識のレベル内において品質保証ができるし、ぼくという実名の学者の範囲内で責任をとれるからだ。

 というわけで、ビットコイン論文の解説+抄訳を公開する運びとなった。興味ある方は、是非ご一読ください。そして、「ビットコインって面白いかも」って思えたら、是非とも、拙著『暗号通貨の経済学 21世紀の貨幣論講談社選書メチエも併せてお読みください。

 

暗号通貨の経済学 21世紀の貨幣論 (講談社選書メチエ)

暗号通貨の経済学 21世紀の貨幣論 (講談社選書メチエ)