ミクロ経済学の教科書を書きました!

前回のエントリー

来週、統計学の新書が刊行されます! - hiroyukikojima’s blog

で予告した通り、ミクロ経済学の教科書が今週末に刊行されるので、その宣伝をしたい。タイトルは、『世界一わかりやすいミクロ経済学入門』講談社、である。いやあ、これも編集者が付けたタイトルだが、あざとい。まことにあざとい(笑)。

 この教科書のコンセプトは、「社会人になって役立たないミクロ経済学の知識は、潔く切り捨てた」ということだ。

ぼくは、30代後半に経済学の勉強のために大学院・経済学研究科に入学した。ぼくは数学科の出身だから、経済学ががんがん高度な数学を使っているのは、めっちゃ楽しかった。「数学って、こんなふうにも使えるんだなあ」と感慨深かった。

でも、大学でミクロ経済学を教えるようになって、その感覚は正反対になった。「なんで、これから社会に出る大学生たちが、こんなこむずかしい数学で表現された役に立たない経済学を勉強しなくちゃいけないんだろう」とかわいそうになった。ぼくにとって、教科書に書かれているミクロ経済学が役に立ったのは、博士課程への進学資格を得ることと、論文を書くときだけだ。それこそ、日常生活にも、ビジネスにも、納税にも、役に立ったためしがない。

そこで、「役に立たない部分を削除した教科書」を書こう、という企画を持った。本書はそういう意図をもって書かれた教科書だ。だから、定番の教科書とは、少なくない点で内容や構成が異なっている。それは、序文で熱く語っているので、今回は序文をそのままさらすことにする。

  『世界一わかりやすいミクロ経済学入門』の序文

ビジネスにマジで役立つミクロ経済学を!

 世の中にミクロ経済学の教科書は掃いて捨てるほどあります。それらと比べて本書のウリがどこにあるかについて説明しましょう。

①ビジネスにマジで役立つ題材だけにしぼっている!

あなたが経済学部卒の社会人か経済学部の学生であるなら、次の質問に答えてみてください。「学部で勉強したミクロ経済学が仕事で役立ったことがありますか?」、「学部で学んでいるミクロ経済学が将来、仕事に活かせる予感がしますか?」。どちらの答えもきっと、NO!でしょう。

悲しいことにも、これらの解答は正解なのです。経済学者であるぼくもこれらの解答に激しく同意します。世の中のミクロ経済学の定番教科書が役立つのは、経済学の大学院に進学するごくごくわずかな人にだけで、それ以外の大量の社会人・学生さんには全くの無用の長物にすぎないと思います。

なぜこんな悲劇が起きているかはここではあえて語りません。代わりに、本書はそういう悲しい現実を打ち破る試みとして書いた、ということを胸を張って述べます。

本書は、ミクロ経済学の定番教科書から、ビジネスに不要な部分を削除しました。そして、誰もがビジネスに携わっていく中で活き活き使える「ものの見方・考え方」だけを採用することにしました。以下、どういう点かを説明しましょう。

②難解な無差別曲線・効用関数・微分はバッサバッサと削除した!

ミクロ経済学の定番教科書では、「効用関数を用いた無差別曲線」をたっぷり解説します。ぼくはこれが学習者を落ちこぼす元凶だと思っています。これが問題なのは、分かりにくいだけではなく何の役にも立たないことです。社会で活かせる場面は皆無と言っていいです。

もう一つの元凶は「微分」です。経済学部の学生たちは「文系だったのに経済学部に来たら微分をやらされた」と頭を抱えることになります。ところで、経済の理解に微分って不可欠でしょうか? ぼくは全くそう思いません。微分は経済現象を表現するための一つの道具にすぎず、不可欠なものでも本質でもありません。消費者の心の中の嗜好も、企業の生産計画も微分なんてできません。だから本書は、これらの元凶を思い切って削除しました。そうすることで逆に、いろいろなことをわかりやすく解説できるようになります(例えば、価格と量の軸を逆にするなど)。また、扱うテーマを広げることもできます(例えば、選挙制度など)。だから、難しい数学に苦しむことなく、「経済学の広さと有用さ」を印象的に納得してもらえるようになったと自負しています。

③経済学の根本的な疑問に答える!

 本書のもう一つのウリは、経済学を学ぶ人が抱くであろう根本的な疑問に答えている、という点です。多くの学習者は、「需要曲線って、どこに存在する?」、「需要曲線ってどうやったら描けるの?」、「需要曲線と供給曲線の交点で取引が行われるのは本当?」といった素朴な疑問を持つでしょう。しかし、たいていの教科書はそういう疑問に答えようとしません。その理由は、経済学者という人種がそういう根本的な問いを通らずに来たからに他なりません。でもぼく自身は、そういう素朴な疑問に頭を悩ませた経験を持っています。本書ではできるだけそういう疑問に答えようと試みました。

 ④解いて楽しいオタクっぽい練習問題を導入!

何の教科書であっても、最も大事なことは練習問題を解くことです。しかし、定番教科書の練習問題は無味乾燥で解く気力が起きないものがほとんどです。本書ではそれを打破すべく、練習問題の題材をできるだけ多くの人が楽しめるものに工夫しました。それこそ、「アイドル市場」、「イケメン俳優さんとのデート」、「アニメ・キャラのフィギュア」などのオタクっぽい題材です。これならきっと、読者も興味を持ち、解く気になって、楽しんで経済学を身に着けることができるに違いありません
 ではでは、ミクロ経済学の楽しい勉強をいざ開始することとしましょう!

実はぼくはだいぶ昔にも、ミクロ経済学の教科書を書いたことがある。MBAミクロ経済学日経BPだ。それこそ、経済学者の駆け出しの頃に書いた本なので、ごりごりにコアなミクロ経済学の内容になっていて、野心的を超えて暴走ぎみの教科書だった。しかも、これでも微分を使わず、最適化の方法は受験数学テクニックを使いまくった。そうすれば、賢い、中学生・文系高校生・文系大学生・社会人にも理解できると考えたからだ。しかし、その考えがバカだった!受験テクニックのほうが、多くの人にとってずっと縁遠いものだったからだ(笑)。長く受験塾の先生をしていたので、その辺の感覚がズレてしまっていたのだ。それで、この教科書は、信じられないほど売れなかった!

こんなことなら、素直に微分を使って書けば良かった、と後悔した

 でも、いいこともあった。この教科書をほめてくださる一人の経済学者に出会うことができたからだ。その人とは今でも、経済学について、いろいろ議論させていただいている。いつか共著の論文を書きましょう、という関係になっている。怪我の功名ともいえる。

 今回の『世界一わかりやすいミクロ経済学入門』講談社は、MBAミクロ経済学日経BPとは正反対の教科書になっている。易しくて・わかりやすくて・面白くて・役に立つ、そういう内容になっている。でも、MBAミクロ経済学日経BPのようなコアな教科書も、いつかリベンジで書いてみたいものだ(売れないと思うけど。笑)。