宇沢先生のシンポジウムに登壇します!

今週末、10月26日土曜日に、

宇沢弘文没後5年追悼シンポジウム All ABOUT UZAWA

が開催される。ぼくも一つのセッションに登壇する予定なので、大々的に宣伝したい。

詳しくは、以下で。

allaboutuzawa2019.peatix.com

ぼくは、プログラム2宇沢が考えた経済学とはなにか 」、というセッションに参加する。討論するのは、『資本主義と闘った男』の著者である佐々木実さんと阪大准教授の安田洋祐さんだ。佐々木さんについては、

『フランダースの犬』と社会的共通資本の理論 - hiroyukikojima’s blog

で少し紹介している。安田さんについては、ずいぶん昔に、

イケメンたちが書いたイケメンな経済数学 - hiroyukikojima’s blog

で、イケメン経済学者として(笑)、紹介している。

どんな討論になるか、今からめっちゃ楽しみだ。是非、皆さん、ご来場くだされ。

 これだけで終わるのは、せっかく来訪して読んでくれている読者がいるのにもったいないということで、おまけとして、拙著『世界一わかりやすいミクロ経済学入門』講談社について、追い打ちの販促をしておこう(いらない、とか言わないの)。

 

世界一わかりやすいミクロ経済学入門 (KS専門書)

世界一わかりやすいミクロ経済学入門 (KS専門書)

 

 

この教科書が、これまでの教科書とはかなり違うアプローチをしていることは、前回、

今回のミクロ経済学の教科書はどこが「斬新」なのか! - hiroyukikojima’s blog

でエントリーした。今回は、この中から特別な講を取り上げて売り込もう。それは、

第5講 人は心の中に「好み」を備えている
第6講 直接交渉をシミュレートする

の二つの講義だ。ここでは、普通の教科書では「効用関数」と「無差別曲線」を使って解説していることを、「選好」を使って解説している。

選好というのは、「AさんはXのほうをYより好む」ということを記述するもの。記号では、

X≻A Y

のように書く。≻は不等号のようだが、不等号とは違う。不等号「>」よりも丸みがある記号だ。「同じくらい好きかより好き」の「≽」と、「等しいかより大きい」の「≥」とを比べればより見やすいかもしれない。

選好「≻」は不等号「>」とほとんど似た性質を持ち、似た操作性を持っているので、不等号でイメージを作ればいいから難しくはない。実際、どちらも集合論における「順序集合」の「順序」にあたるもので、似た性質と操作性を持っているのは当然なのである。

「選好」を持ちだすのが良いのは、次のようないろいろな応用が可能だからだ。

(1)  リンゴ≻A ミカン

(2)  (4 , 3)≻A (5 , 1)  (ここで(x , y)は国産ウイスキーx杯と輸入ウイスキーy杯の消費を表す)

(3)  乃木坂46A  欅坂46

(4)  福祉社会≻A 競争社会

(1)と(2)は消費選択の分析に使えるし、(3)はアイドル選択の分析(笑)に使えるし、(4)は社会選択の分析に使える。もちろん、「効用関数」と「無差別曲線」を使ってもがんばれば同じことができるだろうが、相当な遠回りになることは否めないと思う。

ぼくの教科書では、第5講で「選好記号」を導入して、まず、アイドルのファン投票を例に「投票のパラドクス」を説明する。そして、「選好」だけを使って、いわゆる2財モデルと呼ばれるものの中の「完全代替財」と「完全補完財」を定義する((2)を使う)。その上で、予算制約を満たす消費可能集合の中からの最適選択を(離散的にだけど)説明する。このルートだと「効用関数」「無差別曲線」よりずっと解説が短くて済むのだ。練習問題では、「オストロゴルスキーのパラドクス」(坂井豊貴さんの本から引用した)という政策選択の問題((4)にあたる)を扱っている。こう並べると難しく聞こえるかもしれないが、どっこいぜんぜん難しくない。従来の教科書より世界一わかりやすい(笑)。

第6講では、「選好」を土台に物々交換のモデルを説明している。普通はエッジワース・ボックスという(専門家はめっちゃ好きだが)初学者には難解なツールを使うものを、かなりわかりやすくスピーディに(離散的にだけど)説明できている。その上で、「異時点間の消費選択のモデル」もおおざっぱに紹介する。

 こんなふうに、従来の教科書とはかなり違うアプローチをしているので、是非、ご高覧いただきたい。

 この教科書を書いてて、「選好理論(preference theory)」というのがどこから来たのか知りたくなって、いくつか文献を読んでみた。

冒頭にシンポジウムを告知した宇沢弘文先生の本によれば、19世紀のアービング・フィッシャーとパレートが先駆者と書いてある。そのあと、20世紀にサミュエルソンが顕示選好という概念(観測された消費から選好を導出する)を持ちだし、完成に近づき、それをハウタッカーが完成させたように書いてあった。

英語版のウィキペディアによると、フリッシュという経済学者が1926年頃に最初のモデルを開発した。しかし、フォーマルなモデルを作ったのは、フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンの『ゲームの理論と経済行動』だということだ。彼らはこの本で、「期待効用」というのを公理化している。その影響を受けて、マルシャック、ハウタッカー、アローらが選好理論を利用するようになったそうだ。そして、現在の形式を完成したのがド・ブリューだが、(なんということか)数学集団ブルバキの影響を受けて、消費者理論を完全構築したとのことだ。

 手前みそになるが、ぼくの考えでは、21世紀のミクロ経済学教育は、「選好」を下敷きに構成したほうがいいように思うのだな。

 もういちどダメ推しするが、シンポジウムに是非ともお越しを!!