Tricotの無観客ライブは、本当にすばらしかった。

今回は、久しぶりに音楽のことをエントリーする。

話題は、日本のバンドTricotの無観客ライブのこと。

Tricot(トリコ)は、女性3人と男性1人からなるJ-popのバンド。ボーカルの中嶋イッキュウさんは、ジェニーハイで有名になったので、Tricotももっともっと売れていいと思うのだが、チケットが手に入らなくなるのは困るので、痛しかゆしだ。

 彼らの音楽を何かのジャンルに当てはめるのは適切でないように思えるが、ぼくは「新世代のプログレ」に分類している。この辺のことはあとで説明する。

Tricotのライブには、もう10回ぐらい行ったと思う。それについては、

渋谷でトリコのライブを観てきますた - hiroyukikojima’s blog

赤坂ブリッツで、Tricotのワンマンライブを観てきた。 - hiroyukikojima’s blog

この世で観られる最高の音楽〜Tricot - hiroyukikojima’s blog

などで読んでほしい。

先週の3月14日にもTricotのライブが予定されたのだが、ぼくはもちろん、チケットを確保していた。しかし、コロナ肺炎感染拡大を受けて、ライブは振り替えとなり、演奏は無観客で行われ、それがネット配信された。

ぼくは高齢者なので、ライブが決行されても行かないつもりだった。今回を逃しても、生きてあと10回彼らのライブを観たほうが幸せだと判断したからだ。でも、予期せぬ幸運で、無観客の演奏をネットで観ることができた上、10月のライブにチケットは振り替えできた。めっちゃ嬉しかった。

無観客ライブは、リアルタイムで視聴したけど、その後もネット上に置いてあったので、夜中にもう一度観て、翌日以降にも2回ほど観た。めちゃめちゃ得した気分だ。

オフィシャルなアップロード(1曲だけ。音がいい)↓

https://www.youtube.com/watch?v=WC3VuXS_4xA

youtubeにアップされてる全編↓

https://www.youtube.com/watch?v=gUY79MfD2aE

tricotはこれまで自主レーベルだったが、去年エイベックスに移籍し、つい最近、メジャーデビューアルバム「真っ黒」をリリースした。そのレコ発ツアーだっただけに、無観客ライブになったのはさぞ無念だったと思う。

真っ黒(CD+Blu-ray Disc)

真っ黒(CD+Blu-ray Disc)

  • アーティスト:tricot
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: CD
 

  さて、このニューアルバムは、ものすごい名作だと思う。これまでもいいアルバムを作ってきたけど、そろそろネタが尽きるかと思いきや、どうしてどうして、こんなに斬新なアルバムを作れるのはすごいことだと思う。

このCDには、ブルーレイ付き(またはDVD付き)があって、フルライブの映像が観れるので、そっちを買うのがお勧めだ。14曲全部好きだが、とりわけ「秘蜜」「危なくなく無い街へ」がめっちゃ好きだ。特に前者は、「こんな曲を現代に作れる人がいるのか!しかも、女子が」とびっくらこいた。

 Tricotの音楽は、ぼくの中では「プログレ」なのだが(プログレは、プログレッシブの略)、現代の分類でいうと「Math music」というのに属するらしい。Mathは数学のこと。つまり、数学的な音楽のことだ。奇数拍子、変拍子、リズムの転換、リズムずらしなどを真骨頂とする。

 ぼくらの時代には、「プログレ」はキング・クリムゾンピンク・フロイド、イエスジェネシスなどたくさんあった。一大ムーブメントだった。ぼくは、この中ではキング・クリムゾンが一番好きだった(今でも好きだ)。この手の音楽は今のJ-popのメジャーシーンにはほとんど見かけないから、Tricotは貴重な存在なのだ。

 実は、Tricotで作曲をしているギタリストの木田モティフォさんは、キング・クリムゾンの影響を受けているのではないか、という邪推をしている。根拠は三つある。第一は、ギター2本のずらし(ポリリズム)を多用すること。第二は、ネットのインタビュー番組で、彼女の使っているエフェクターが父親譲りだと答えてたので、父親がギターを弾く人だということは、父親の影響でクリムゾンを聴いてて不思議ではないこと。第三は、彼女の作った曲「bitter」に、はっきりクリムゾンのリーダーのロバート・フリップへのトリビュートを感じること。ちなみに、この曲「bitter」は、前掲の「真っ黒」のブルーレイ・ライブ映像で演奏しているで、是非、聴いてみてほしい。

たぶん、「bitter」がトリビュートしているのは、ロバート・フリップのソロアルバムとか、ソロユニット「リーグ・オブ・ジェントルメン」のアルバムに収められている「Under Heavy manners」という曲だと思う。これは、トーキング・ヘッズのデビッド・バーンがボーカルをやっている。「マルクシズム」とか「ニヒリズム」などたくさんの「~イムズ」を連呼し続ける不思議な曲だ↓。

https://www.youtube.com/watch?v=_HNStzPtZ2M

そして、Tricotの「bitter」も、「~イムズ」を連呼し続ける曲(かなりふざけているが笑)。もしも「Under Heavy manners」を知らずに作曲したなら、それこそ恐れ入る。

 ちなみに、この頃からフリップは、フリッパートロニクスというエフェクターを自分で作成して使い始める。これはたぶん、オープンリールに即興で作ったフレーズを録音して、それをリピートさせながら、そこに新しいフレーズをかぶせていくマシン。メロトロンというキーボードから発想したんだと思う。これによって、フリップは、ギター一本で即興演奏をできるようになった。その後、このエフェクターは、サンプリングシンセの機能で簡単に使えるようになり、多くのギタリストが使っている。木田さんも最近よく使っている。

 還暦過ぎて、最も愛するクリムゾンの音楽の影を感じる音楽を、若い女性たちのバンドで聴けるなんて、自分は果報者だと思う。

 それにしてもつくずく思うのは、現代における視聴環境の激変だ。

トリコの無観客ライブは、ライブ配信でもあるが、ライブ後にも(一週間だけだが)観ることができる。こんな時代が来るとは想像もできなかった。

 忘れもしない高校3年のとき、NHKの洋楽ライブ番組「ヤング・ミュージック・ショー」でイエスのライブを放送することになったのだが、その放映日が不運にも、模試と重なってしまった。そのイエスのライブは、アズベリーパークで行われた伝説のライブで『海洋地形学の物語』を演奏したものだった。実は、ぼくはイエスの中では、大評判のアルバム『危機』や『壊れもの』より『海洋地形学の物語』が好きだった。だから、どうしても観たいに決まってた。仮病を使って模試を休むとか、行ったふりして友達の家で観るとか、いろいろ作戦を考えたが、まじめなぼくは結局模試を選んだ。問題を解いている間、頭を『海洋地形学の物語』が旋回して、集中できなかったのを今でも覚えている。そして、その後、ずっと後悔し続けた。とにかく当時は、オンエアーの時間にテレビの前にいないとどうにもならなかったのだ。そして、ビデオデッキはまだ庶民には買えなかったので、頭に焼き付けるしかなかったのだ。

 その後、新宿のAという有名なインディーズビデオ店で、イエスの「ヤング・ミュージック・ショー」の(非合法)ビデオを入手したときは嬉しかった。店主は、NHKの職員がお忍びでときどき査察にくるが、雰囲気でわかるので、NHKのビデオを全部隠すって言ってた。笑

 ヤング・ミュージック・ショーで秀逸だったライブ演奏に、ピンク・フロイドの「ポンペイ・ライブ」がある。これは、映画用に撮られた無観客ライブだ。ポンペイの遺跡で撮られたすばらしい演奏であった。ピンク・フロイドと言えば、『狂気』とか『ウォール』とかが名作と言われているけど、(もちろん、ぼくもそれらが大好きだが)、このライブではそれ以前の「神秘」とか「ユージン斧に気を付けろ」とか「エコーズ」とかを演奏している。これらの曲は真にプログレッシブ(アバンギャルド)で、ピンク・フロイドの本領だと思うから、すばらしいライブだった。

 ちなみに、自分でビデオ・デッキを買ったときは、真っ先にこのピンク・フロイドポンペイ・ライブ」のビデオ・ソフトを購入した。記憶では2万円ぐらいした。(あと日活ロマンポルノも2万ぐらい出して買ったのは内緒。笑)。

 このような苦労に比べると、今の若者は幸せだと思う。無観客ライブをネットで観ることができ、youtubeであらゆる音楽が聴ける。定額のサブスクで、いくらでも聴きたい音楽を聴くことができる。ぼくらの青春時代には、それなりに工夫をして、なんとか音楽を入手し、それはそれで楽しかったが、現代に若者でいたかったのは間違いない。

 数学クラスタで(クラスタって言葉は、今は鬼門だね)このブログを楽しみにしている人のために、ちょっとだけ数学ネタに触れておこう。今ぼくは、小野孝『数論序説』を読んでる。こっれがもう、めちゃめちゃいい本なんだ。それについては、次回にエントリーしたいと思う。