とぼけた物理学者とその息子

 まあ、ドラマ「ガリレオ」が大はやりということもあって、今日はこんなネタ。


 これはだいぶ昔、職場にバイトに来ていた応用数学系の院生から聞いた笑い話。
その院生の父親は物理学者で、父親のおもしろ話なのだが、なにせ、ぼくは物理にうといし、
うろ覚えで書くので、院生がしてくれた実際の話とはかなり(とりわけ物理の部分について)
違ってしまうかもしれないことを予めお断りしておこう。


 その院生が一家団欒、家族でテレビを見ていたときの話だ。
テレビではお笑い番組をやっていて、お笑いタレントが牛乳を飲もうとしているのだが、
牛乳のふたを開けると牛乳が勢いよくビンから飛び出して、空中に舞いあがってしまって、
うまく飲めないどころか鼻から入ってしまう、というよくあるコントである。


 ところがその院生の父親はそれを見ながらこういったのだそうだ。
「物理学的におかしい。こんなことはありえないはずだ」
 それを聴きながら、息子である院生は、たわむれに
「では、お父さん、どんな力がかけられていると考えられますか。遠心力ですかね」
と聞くと、父親は大まじめな表情を崩さず、
「原理的には可能だが、そんな遠心力がかかっていたら、このタレントさんはもっと
大変なことになっていて、こんな楽しそうな顔をしてはいられないだろう」
と答えたそうな。
 それを聞いて、ひょっとして父親がまじで疑問に思っているのではないか、
と感づいた院生は、こうたたみかけた。
 「じゃ、磁力はどうですか。磁力ならありうるんじゃないですか」
父親は、おちょくられているとも気づかず、
「これほどのことが起きる磁力をかけたら、放電して大爆発するかもしれない」


 息子とのそんなやりとりを数回した後、父親は、はっ、という表情になり、こうつぶやいたそうな。
「なんだ。ただ、カメラを逆さにして逆さにされたタレントさんを撮っただけじゃないか」


その息子も、似たような学者バカか、というと、全くそうではない。
むしろ逆のタイプだといっていい。
以下も、だいぶ昔の話なので、詳細は忘れてしまったので、
雰囲気だけで読んで欲しい。

ある同僚が、変なおもちゃを買って、職場に持ってきた。
それは、ジェットコースターのようなレールでできており、
真ん中が一番低く、それからどちらの方向にいっても、
レールが上がっていくようになっている。
コマが1個あり、それは円盤に軸が貫くものなのだが、
そのコマの軸の両側をレールに乗っけて、円盤部に回転を与える。
最初、最下部にあたるレールの中央部で回転させ始める。
するとコマは、右に行ったり左に行ったり繰り返しながら、次第に
その揺れが大きくなって行き、しまいには
レールの高いところまで登り切り、
どちらかの端点まで到着してしまうのだ。


そこで、理系の講師や院生がよってたかって
どんな原理になっているのか議論を始めた。
とりわけ物理系の人の議論は真剣だった。
回転のモーメントが位置エネルギーに転嫁して
うんぬんかんぬん、というようなことを
いっていた記憶がある。
ガリレオ先生さながら計算をしようとするやつまで
出るしまつ。


ところが、その物理学者の息子の院生は、
ずっとにやにや見ていたか、と思うと、
その持ち主がちょっと席をはずしたすきに、
やおらおもちゃの下蓋をとってしまったのだ。


そう、そこに我々は電池を見出すことになった。
つまり、動力が供給されていた、ということ
なのだ。


彼は、そこで、
「別に確信があったわけじゃないんだけど、
動力が供給されていないことを確かめてから
考えるのが近道でしょう」
的なことをいったように思う。


これは、ぼくにとって、あれと同じくらいに
ショックだった。
そう。
PKディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか
のラストのほうで、主人公がやっとの思いで発見した
本物の(アンドロイドでない)亀を奥さんに見せる、という
大感動のシーンで、その奥さんが、
「どこかにボタンがあるはずよ」
とかいいながら、亀の腹あたりをまさぐっていると、
亀の甲羅のケースがパカっと開いてしまう、
あの瞬間ぐらいのショック・・・


つまり、
物理学者の父親のほうはある意味で理系的ロマンティストだが、
その息子のほうは、全く逆で、理系的リアリスト、だった
わけなのだね。