めちゃくちゃ忙しくて、このブログをなかなか書けなかった。
今回は、ここ一ヶ月ぐらいにぼくが関わっていたアレコレをとりとめなく綴ってみようと思う。
まず、7月に森内俊之名人の名人就位式に参加してきた(昨年については、森内名人の就位式に参加してきますた。 - hiroyukikojimaの日記参照)。今年も、名人ご本人に招待していただいたのである(えへん)。
今年の名人戦は、昨年と同じく最強の羽生三冠が挑戦者であったにもかかわらず、森内名人の強さが際立った7番勝負だったと思う。どちらが勝つにしても一方的な形勢になり、二日目夕方には終局を迎えていることが多かった。
何より面白かったのは、森内名人は対戦前の挨拶で「将棋ソフトでは観られないような、人間同士の対戦をお見せする」みたいなことを言っておきながら、決め手になった5戦目では、「将棋ソフトが放った新手」を使った、という「事件」だった。2戦目だか3戦目だかの終局後の懇親会で将棋ソフトの対戦を観戦していたとき、将棋ソフトが出した新手を面白いと思って、それを研究した後、実践で使ったということだった。ほんとに森内名人というのは、おちゃめな人だと思う。
昨年、森内名人と会食させていただいた際に、ぼくが将棋ソフトについて質問すると、名人は「将棋ソフトは研究に利用しています」というようにおっしゃっていた。それが今回、関係者の目の前で公然と繰り広げられた、ということになる。
実は、この将棋ソフトの顛末は、ぼくにとって実に興味深い話だった。というのも、昨日(8月11日)の朝日新聞の書評欄でどでかい広告が打たれた、ぼくと黒川信重先生の共著『21世紀の新しい数学』技術評論社(どでかい広告打った、ということはけっこう売れているのだろうか)の中で、コンピューターによる数学の研究のあり方について、いろいろ論じられているからである。
21世紀の新しい数学 ~絶対数学、リーマン予想、そしてこれからの数学~ (知の扉)
- 作者: 黒川信重,小島寛之
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2013/07/23
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実は、現在、ミレニアム問題の一つになっている「バーチとスイナートン・ダイヤーの予想(BSD予想)」も、もとはといえば、1960年代に彼らが、当時出来たてのコンピューターを使って計算して見いだされたもの、とのことだ。『21世紀の新しい数学』技術評論社では、このような数学の理論の生々しい裏話・秘話みたいなものが満載の本なのだ。非常に変わった数学書になったと自負している。とりわけ、望月教授によるabc予想解決についての詳しい内容や、現在状況の話は、他ではなかなか手に入らない情報だろう。数学自体を学んでいる人も、他分野の研究者も、また、ビジネスパーソンであってさえも、これを読むといろいろ励みになるんじゃないかな、「未来」というものの感じ方について。
それと多少関係があるんだけど、実は、急にある映像フィックションの数学監修をすることになって、ここ一週間はてんてこまいしていた(何の監修であるかは、放映の直前になったら、当ブログで宣伝するつもりだから、乞うご期待)。監修のために、数学を勉強もして、特に、知識が曖昧だった楕円曲線の理論について、かなりまじめに勉強し直したのが収穫だった。こうやって、まじめに勉強してみると、楕円曲線の数論というのは、この上なく魅力的であることがわかった(数と楕円曲線 - hiroyukikojimaの日記参照のこと)。
ちなみに、今月下旬に刊行される新著『世界は2乗でできている〜自然にひそむ平方数の不思議』ブルーバックスは、数論と物理とをトッピングしたユニークな本になっているので、お楽しみに。これも近くなったら詳しく宣伝する。
世界は2乗でできている 自然にひそむ平方数の不思議 (ブルーバックス)
- 作者: 小島寛之
- 出版社/メーカー: 講談社
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音楽については、相変わらず、オートマティックラブレターのジュリエットのボーカルに惚れ込んでいる。本当に惹きつけて放さない魅力的な歌唱である。そんななか、赤坂ブリッツでスティーヴ・ヴァイのライブに行ってきた。五十路を過ぎているとは思えない、とんでもない技巧のギタープレーだった。現存するギタリストの中でも屈指のプレーヤーだと思う。とりわけ、アコギでの演奏の中で、故フランク・ザッパの曲を演奏したくれたのには、感涙むせんだ。ザッパにはまっていた頃、アメリカツアーに絶対に行ってライブを聴くと決意したんだけど、直後にザッパは癌に罹患してツアーを中止、一年ぐらいで亡くなってしまった。ヴァイが、ザッパの音楽を生かし続けてくれていることはとても嬉しいことだ。
まあ、いろいろな忙殺事が片付いたので、残る夏休みは、次の書籍の執筆と、アイデアのまとまった論文の作成にかかろうと思う。
最後になったが、そんなこんなで、猛暑お見舞い申し上げる。