青春は、今も昔も、痛々しくて美しい

 前回は、橋本愛さんと蒼波純さん主演の映画「ワンダフルワールドエンド」で(一人で勝手に)盛り上がった。これ(ワンダフルワールドエンドの舞台挨拶を見てきますた - hiroyukikojimaの日記)で書きたかったのは、「青春は、今と昔で違うのか」ということだったんだけど、それについては十分に語ることができなかった。こういう疑問をそもそも持ったのが、前回にも書いたが、いくつかの少女マンガで、その世界観に入れなかったからである。「何か重要なものが欠落しているような気がする、恋愛に最も重要な要素が見当たらない」と思ってしまったのだ。時代が変わって、それが当たり前で、自分が歴史の置いてきぼりになったなら仕方ない。いさぎよく、「青春市場」から撤退して、渋茶でもすすっていよう。でも、本当にそうなのか。
 そんなこんなで、今回も、この自問自答での答えについてエントリーすることにしたい。それは、「青春は、今も昔も、痛々しくて美しい、という点は変わらない」ということだ。
 そう思って安心したのは、いくつかの青春映画をDVDで観たからである。そのうちの数本は、橋本愛さんが出演しているものであり、別の数本は橋本さんと無縁の作品だ。まず、橋本愛さんが出演しているものについて、感想をまとめておく。
 映画「大人ドロップ」については、前回(ワンダフルワールドエンドの舞台挨拶を見てきますた - hiroyukikojimaの日記)に書いたので、ここでは省略するが、これぞ古典的な青春の恋愛、という作品だ。次に紹介したいのは、映画「桐島、部活やめるってよである。これは、原作を読んでいないのでわからないが、映画を観る限り、一点を除いて、古典的な高校生の青春恋愛模様を描いているように思える。その「一点」については、作品の重要なプロットなので、ここではこれ以上は語らない。

桐島、部活やめるってよ(DVD2枚組)

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この映画では、主人公で映画部の部長をやっている神木隆之介さんがめちゃめちゃ良い。橋本愛さんは、その主人公に密かに思いを寄せられる女子なのだが、その主人公の勘違いぶりがとても笑える。そして、痛々しい。他にも、何人かの登場人物の恋愛模様や秘めたる気持ちとかが描かれる。ほっとするほど、それは「古典的」だ。
 もう一つ、橋本愛さん出演の作品を挙げておこう。それは、映画「ツナグ」である。これも原作を読んでいないので、映画のみの感想となる。
ツナグ(本編1枚+特典ディスクDVD1枚)

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これは、死者とそのゆかりの人とを一晩だけ会わせて、心残りのことを話し合わせる、という物語である。そういうことを可能とできる能力がある種族が主人公なのだ。ぼく自身は、そういう「死者と会う」というプロットはかなり「ありてい」だな、と思っているので、期待しないで(橋本愛目当てで)観た。けれども、不覚にも良い作品で感動してしまった。とりわけ、橋本愛さんの演じる女子高生が、不慮の事故で死んだ親友の女子と会うエピソードは良くできている。何がか、というと、二人の女子高生の間のある男子をめぐる駆け引きのことである。これについては、何も死者と生者でなくとも、同じプロットを描けたかもしれない、と思いはする。だけど、非常に巧妙な伏線をはった上で、それが死者と生者のかいごうによって解決されるので、「なるほどなあ」と感心させられてしまった。親友同士がライバルという残酷さ、青春の邪悪さが、みごとに短いエピソードの中に実現される。この作品には、桐谷美玲さんが出演しているのだが、彼女についてはあとで別の作品で触れる。
 ここで、橋本愛さんから離れるとしよう。
 「青春は、今も昔も、痛々しくて美しい、という点は変わらない」という意味で、最も感動した作品は、映画「包帯クラブである。これは、天童荒太さんの原作を「ケイゾク」「TRIC」「SPEC」等の堤幸彦さんが映画化したものだ。
包帯クラブ [DVD]

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これは、もう、のっけから泣いてしまうような切ない青春映画であった。主演は、石原さとみさんであるが、現在のさとみちゃんと連続的につながっているのか?って疑問に思うほど、全く感じのちがう女子高生のさとみちゃんである(笑う人は笑うと思う)。物語は、「心に傷を負ってしまった場所」を匿名でネットで報告してもらい、その場所に「包帯を巻く」というクラブを作って、「癒やし」を行う高校生のグループを描いている。このプロットだけ聞くと、「なんだ、そんなことか」と思うかもしれないが、映像で見せられると、もう胸が締め付けられてたまらない。柳楽優弥さんがとんでもない怪演をしているし、今は「相棒」など引っ張りだこの田中圭さんも、デフォルトした感じを好演している。いまや押しも押されぬ貫地谷しほりさんの女子高生役は新鮮だった。てか、今調べて、すげえ驚いたんらけど、リスキというあだなの女子を演じてた佐藤千亜妃さんって、バンド・きのこ帝国のボーカルの子だったのね!きのこ帝国は、一度、ライブを観たことがあるっすよ。なんてこったい、映画観ても全く気づかなかった。いや、そうだったのか、参った。
 (気を取り直して)それはともかく、この映画では、あまり出番はないくせに、非常に重要でインパクトのある役を演じている関めぐみさんがすばらしい。関めぐみさんは、壮絶ないじめを描いたドラマ「ライフ」でも、主演の北乃きいさんを凌駕する演技を見せた個性派の女優さんだが、この作品でもその本領を発揮している。本当に独特の雰囲気のある人だと思う。傷つきやすい、デフォルトした青春の切なさを演じるには最高の役者さんだと思う。
 とにかく、この映画は、エンディングがめちゃくちゃ泣ける。もう、ほんと、号泣、嗚咽してしまった。痛々しさのありかは昔とは違うかもしれないが、それでも、傷つきやすい青春、その痛々しさは、今も昔もおんなじなのだ。是非とも多くの若者、そして、青春まっただ中のおやじたち(笑)に観て泣いて欲しいものである。
 天童荒太さんの小説は、子供の性的虐待を描いた永遠の仔も家族問題を描いた『家族狩り』も、すばらしい作品だった。どちらも、ミステリーとしてのプロットやトリックと、物語自体が調和しており、「泣けるミステリー」としては、他の追従を許さない。本当に天才的な作家だと思う。
 これで終わるのは気恥ずかしいので、ちょっと視点をずらした作品を最後に紹介しておこう。それは、映画「荒川アンダーザブリッジ THE MOVIE」だ。これは、テレビでやってたのを観て、めちゃくちゃ面白かったので、DVDで借りて観たのだが、映画のほうも劣らず面白かった。監督は、「大人ドロップ」の人と同じ飯塚 健さんである。この映画では(テレビドラマでも)、とにかく、ニノという名前の金星人を演じている桐谷美玲さんがめちゃめちゃすばらしい。今とは違って、真ん中分けの髪をしており、ツンデレなしゃべり方がもうたまらない。主人公とニノさんの恋愛は、奇妙だけど、痛々しくて青春だなあ、と思う。青春はやっぱり美しいなあ、と。まあ、カッパをやっている小栗旬さんがとんでもなく可笑しいのだけど、最後のほうになると、実にずるい役柄であることがわかってやられた、と思う。そりゃ、かっこよすぎですよ、小栗さん、はい。
それにしても、原作はマンガらしいのだが、こんな奇妙な物語をよく成立させられるよなあ、とため息が出る。才能のある人が出てくるのは、今も昔も変わらない。青春は同じなんだけど、時代時代で少しずつは違う。古くても新しい青春物語はこれからも作られ続けるんだろうな、楽しみだな、と思う。