確率・統計は、マーケティングに使えるらしいぞ

 今回は、マンガ統計学マーケティングとアニメのことをクロスオーバーしてエントリーしようと思う。
昨年読んだ本として出色だったのは、森岡毅・今西聖貴『確率思考の戦略論』角川書店だ。この本は、著者たちが、確率理論を使ってテーマパークUSJを現実に成功させた、その方法論をまとめたものだ。

この本を知ったきっかけは、昨年、ある雑誌から統計学についての取材を受け、そのときの記者さんから教えてもらったことだった。雑誌の取材というのは、記者さんが書きたいことを決めてくることが多く、取材を受ける側としては退屈なものなのだが、記者さんから知らない情報を教えてもらうことがあって、軽視できない。
記者さんから聞いて本書を読もうと思ったのは、二つの理由からだった。第一は、昨年ぼくは統計学のマンガ本の作成に参加しており、その解説部分の方向性のアイデアを得たいと思っていたこと。第二は、大学でのゼミで輪読する本を探していたこと。この本はどちらにもドンピシャだった。
実際、現在、ゼミ生たちに本書を輪読させている(森岡さんの前著USJを劇的に変えた、たった一つの考え方』も併読させている)。本学の経済学部の学生は、ビジネスには関心があるが、学際的な経済学や経営学や数学には熱意があまりない。これまで、マーケティングの本をいろいろリサーチしたが、これぞ、と思う本がなかった(難解なくせに、リアリティがない)。なので、去年までは、クリス・アンダーソンの本を輪読させていた。しかし、この本はスゴイ本だと思った。「理論上」の話とか絵空事とかではなく、著者たちが実践し成功を得た、その方法を記述しているので、ビビッドでエキサイティングで、しかもクールだからである。
また、最近刊行されたぼくの新著(共著)『マンガでやさしくわかる統計学』(日本能率協会マネジメントセンター)の執筆にも活かすことができた(この本の紹介は、前回『マンガでやさしくわかる統計学』が刊行されました! - hiroyukikojimaの日記も前々回ぼくの新著、マンガ統計学が出ます! - hiroyukikojimaの日記もエントリ−している)。
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マンガのストーリーは、主人公が統計学をビジネスに活かす、というものになっていて、これは森岡・今西本の影響を受けたわけではない(作成時には未読だった)のだけど、文章による解説部分の方向性を決めるときに影響を受けた。できるだけ、ビジネスを例に挙げるようにし、マーケティングの参考になるような書き方をしたつもりだ。
 マーケティングで重要なことは、おおざっぱには、二つあると思う。第一は、マーケットにある程度成り立つ法則があるなら、それを利用して投入する新製品の売上げの目安を作ること。第二は、新製品の販売戦略に関して、仮説を立てて、事前検証をすること。前者について、ぼくは無知なので、後者を念頭に解説を構築した。とりわけ、仮説検定の解説に大きな影響があった。
 たぶん、統計学を勉強しても、その背後にある理屈をきちんと捉えている人は少ないのではないか、と思う。それは、仮説検定というのが、「確率の逆問題」を「確率の順問題」に変換する営為だ、という点についてだ。ぼくが読んだ統計学の教科書で、このことを論じている(解説している)ものは皆無だった。なので、今回ぼくは、自分が到達した見解を記述してみた次第。
 確率の理論というのは、「確率の仕組み(確率モデル)」は決まっていて、そこからランダムに観測される数値の予測を言うものだ。これをぼくは「確率の順問題」と呼んでいる。一方、統計学の作業はこれと逆である。観測された数字を実際持っていて、それから、「確率の仕組み」を当てる(パラメーターを特定する)というものだ。これをぼくは「確率の逆問題」と名付けた。「逆問題」は、「順問題」を逆向きにすれば解ける、というものじゃないとこが面倒なのだ。「順問題」はモデルのパラメーターが与えられているから、ランダムな数値を確率的に予想することができる。しかし、パラメーターが与えられていないと、そういう予想ができないのである。だから、「逆問題」を解くには、どこかにある種の「飛躍」が必要になる。それが(単なる数学ではない)「統計学独自の思想」というわけなのだ。仮説検定は、「逆問題」を「順問題」に変換する典型的な「思想」なのである。(詳しくは、本書で)。
 さて、マーケティングに重要な第一の点については、森岡・今西本がすばらしい。ぼくは、ビジネスにはほとんど関心がなかったので今までリサーチしたことがなかったけど、マーケターの基本となる法則がいろいろあるということなのだ。例えば、負の二項分布(NBD)を使って、アンケート結果からパンケーキや歯磨き粉の購買行動を予測すると、それがかなりな精度で現実を当てることができる、とのことだ。著者たちは、USJでの戦略(例えば、ハリーポッター投入など)を作るとき、これらの予測式で綿密な予測を立ててから、実行に移している。テーマパークは、ファンタジーでメルヘンと言っても、その裏側には、冷徹な数学を活かしているというのだからのけぞる。大事なことは、著者たちが予測を立て、「このままでは成功は難しい」と思ったとき、「諦める」「撤退する」という方針を選んでいないことだ。彼らは、「ならばどうすれば成功するか」という斬新なアイデアをあれこれ考えるのである。この部分に、ビジネスの本性があるのではないか、と思う。大胆な言い方をすれば、ビジネスにはセオリーは不可欠だが、そのあたり前のセオリーを引き算した部分にこそ独自性・気概・秘訣・成功譚がある、ということになるだろう。そういう風に読むと、本書には、面白いエピソードが満載だ。著者たちは、USJ以前に、アメリカのP&G社でブランド・マネージャーに従事したのだけど、そこでのマーケティング戦略のエピソードは目からウロコのものが多く、アメリカの企業がどんだけ(根性論でない)知的な戦略を使っているかには驚かされる。どんな社会人にも参考になる必読本だと思う。
 長くなったが、最後にアニメの話を付け加えよう。
アニメ『マド・マギ』にはまって以来(「魔法少女まどか☆マギカ」に打ちのめされた - hiroyukikojimaの日記にエントリーした)、妙にアニメづいてしまって困っている(いや、困ってはない。笑)。いろいろ観たけど、今はまっているのは、化物語』から始まる「物語シリーズというもの。いやあ、これ、ほんとにすごいよ。あまりに斬新。読んでないのに言うのも何だけど、たぶん、西尾維新さんの原作がものすごいのだと思う。若い作家の物語に打ちのめされたは、乙一さんのミステリーを読んで以来だと思う。「物語シリーズ」は、第一にキャラ設定がすごい、第二に怪異のタイプが新しい、第三にキャラのしゃべり方の色分けがみごと、第四にキャラたちが抱える「病み・痛み」が当世的で泣ける、第五に作画が斬新、第六に主題歌・音楽がすばらしい。いやあ、非の打ち所がない。
アニメ版は、とにかく遊び心が満載で、見始めたら止められなくなる。今、シリーズの半分くらいを見終えたところ(花物語まで)。数話ごと主題歌が変わる、というのもすごいし、ところどころに散りばめられたパロディも超笑える。台詞も、ものすごく考えられていて、ぐっとくる。声優さんの選択も抜群だ。どうでもいいことだろうが、ぼくのキャラの好みを開陳しておこう。(A>Bは、AをBより好む、という記号で、A〜Bは、AとBは無差別的という記号。経済学の記号だね)。
忍ちゃん>>戦場ヶ原ひたぎちゃん>八九寺真宵ちゃん〜千石撫子ちゃん〜羽川翼ちゃん>可憐ちゃん〜月火ちゃん〜神原駿河ちゃん
という感じ(どうでもいいよね。笑)。
 いやあ、ちょっと前まで、「アニメなんて、みんな顔はおんなじで、髪型と髪の色が違うだけじゃん」と豪語してたけど、すいません、猛省してます。キャラのかわいさがわかってしまいました! 息子には「50代後半で、初めてアニメにはまるやつがいるのか」と呆れられておりやす。