新しい革袋に古い音楽

このところ、ずっと真面目なネタばかり書いてきて疲れたので、今日は読者を無視して、めちゃめちゃマニアックなことを書こう。
前回書いたグッバイ・ケインズ - hiroyukikojimaの日記というのは、実は、最近お気に入りのYUIがカヴァーしている曲で、ミッシェル・ブランチという人の Goodbye to you という曲をもじったものだ。次に出るケインズ本のタイトルの一案として、「グッバイ・ケインズ」も浮上したが、結果としては違うものになった。(発売日が決まったあたりで公開するつもりだ)。
実はぼくは、最近、原稿を書いているときは、インストか女性ボーカルしか聴かなくなった。よく理由はわからないけど、好き嫌いにかかわらず、男性の声は、どうも自分の気分とぶつかるらしく、執筆の集中力を阻害するからなのだと思う。それで、このところYUIの3枚のアルバムを聴きながら、ケインズ本の校正を行ってるわけなんだけど、youtubeYUIの映像を探したら、このミッシェル・ブランチの曲のカヴァーをしている映像にぶちあたったんだ。んでもって、ぼくは、「チャイナタウン」のジャックニコルソンばりに、「ああ、またやっちまった」、ってつぶやいたってわけ。どうしてか。
 ぼくは、ある時期から、自分の古い音楽の趣味(というか性癖)から脱皮したい、と望むようになった。なぜなら、いつまでも同じ音楽を聴いている、ということは、進歩しない自分がそこにいるように思われるからだ。ぼくらの世代は、かなりロックを聴く人が多いのだが、ある時期から懐メロとしてロックを聴くようになっていた。いわゆる再結成もののライブにしか行かないって友人が増えた。ストーンズだとかキッスだとかイエスだとか、すでに音楽としては「終わって」いて、(それが失礼にあたるなら、エスタブリッシュされていて)、単なる懐メロと化しているバンドのライブに嬉々として足を運んでいる。もちろん、それで幸せならいいし、今でも好きなら文句はない。でもぼくは、そういうのはヤダな、そういう風にはなりたくないな、と感じている。それで焦って新しい音楽を入手しようと躍起になって、見苦しい抵抗をしてる、ってわけ。
 でも、 それでがっくり来るのは、新しく見つけた、と思ったバンドが、実は自分の古い音楽癖と同じルーツを持っているのを発見したときだ。YUIがミッシェル・ブランチをカヴァーしてたのも、その一例だけど、それはまあカワイイものである。ミッシェル・ブランチは、17だか18でデビューしたカントリー的なバックボーンを持つ天才ヴォーカリストだから、YUIがシンパシーを持っていても不思議はない。

Paramore-Here we go again

 一番参ったのは、去年から今年にかけて、もっともぼくを痺れさせて狂わせたパンク・バンドのパラモアだ。どのくらいイカレたかは、アイドルぐるい - hiroyukikojimaの日記に書いたけど、今でも毎日彼らの2枚のアルバムを聴くほどイカレている。携帯に入ってる写真では、つれあいや息子よりも、パラモアのボーカリスト・ヘイリーのほうが圧倒的に多い。携帯を開くとヘイリーの写真が微笑むので、微笑み返して、何をするために開いたかも忘れてまた閉じてしまうことあまたである。
そのパラモアの1stアルバムに入っている曲で  Here We Go Again というのがあるのだが(↑)、その曲をライブでやるとき、エンディングの部分に、At The Drive in というパンクバンドの One Armed Scissor という名曲のカヴァーを演ってるのだ。これには度肝を抜かれた、とともに、がっかりもした。なぜなら、ぼくは、完全な美少女アイドル・パンク・エモバンドとして、パラモアを好きになったつもりであり、新たな性癖の発掘のつもりになっていたからだ。彼らの、というか、ヘイリーちゃんの音楽ルーツに、At The Drive in があるのだとすれば、ぼくが好きになったのは、その匂いを嗅ぎ分けたからに他ならない。ちっとも新しい自分などでないわけだ。とほほ。
 それをいうなら、ヘイリーは、シングルのカップリング曲として、U2 の sunday bloody sunday なんか歌っちゃってる。U2はいうまでもなく、ある時期のぼくをイカレさせたバンドであり、しかもこの曲は、中でも特別な曲なのだ。18歳のヘイリーが、この曲をルーツとしてるんだったら、結局ぼくはゾンビになっちまってる、つうことじゃないか。

 さらにいうなら、At The Drive in である。
このバンドは、知った直後に解散してしまった。とにかく、One Armed Scissor はとんでもない名曲である(↑)。タイトルからしてやばい。例の事件が起きて間もないので、あまり多くは語らないことにするが、この歌詞は、殺人鬼の独白である。乙一が名作「ZOO」で描いたような、ひどくやばい殺人鬼なのである。曲の展開がまたすごい。演奏の爆発エネルギーも類例を知らないほどである。
ところが、ところがである。
このバンドが解散したあと、ギタリストとボーカリストが結成したバンド、Mars Volta のライブを観に行って、またぶったまげたとともに、がっくり来てしまった。
 なんと、完全なプログレバンドと化していたのだ。
ぼくは、とにかく、プログレ少年、プログレ青年として過ごしてきた。そんな自分から脱皮したくて、もがいている中年なのだ。にもかかわらず、結局は、プログレ癖から、一歩も遠くに行けていないことが判明しちゃったわけだ。ほんと、とほほである。

ついでだから、Mars Volta のライブに行ったときの対バンの話も付け加えておこう。
このときのMars Voltaの演奏は、とにかくめちゃくちゃだった。いったい何をやってるのかさっぱりわからなかった。ヴォーカルのセドリックはがなってるばかりで曲の体をなしてなかった。後にあんなかっこいいアルバムを作るとは、全く予想もつかなかった。つまり、彼らのこのときのライブには超がっかりだったのだ。でも、オープニングアクトで出たバンドが、元をとれるほどにすごかった。
それは、ミッシェルガン・エレファントのチバ・ユウスケが結成したパンクバンド、ロッソだった。
ぼくは、その時点では、ロッソというバンドを知らなかった。結成されたばかりだし、どこにもチバのバンドだ、などとクレジットされてなかったから、完全に気を抜いて、ライブをぼーっと静観していた。でも、数分で、気持ちが高揚し、その音楽に引き込まれてしまった。最初にやった曲は、後にヒット曲になる「シャロン」だった。ぼくは、なんでこんなかっこいいバンドが前座なんだ、と唖然とした。しかも、名前も知らないオープニングアクトのバンドなのに、異様に演奏がうまく、そして、「ものすごく態度が悪い」のである。挨拶もなければ、MCもない。やってきて突然演奏を始め、Mars Voltaのことにも触れずさっさと帰って行った。これはただものではない、と思っていたら、つれあいが「ひょっとして。チバユウスケじゃないの?」と耳打ちして来た。あんな声をした人は他に思い当たらないと。全くその通りだったのだ。ぼくらは偶然、ロッソのほぼ結成すぐのライブをラッキーにも観てしまったのだった。
 そんな経験もあって、ぼくはロッソの「シャロン」をめちゃめちゃ気に入ってしまい、拙著『確率的発想法』NHKブックスでは、最も重要な章における章扉に引用させてもらっている。(もちろん、ちゃんと許可をとってるもんね)。

と。今回もいったい何の話だかわからなくなったな。ネット広しといえど、誰がこんな話を面白がって読むんだろね。まあ、1人2人ぐらいは貼り付けたパラモアのライブ映像を観てくれるかしら。それで本望さ。