『キュートな数学名作問題集』出ました!

 ぼくの新著『キュートな数学名作問題集』ちくまプリマー新書が、今日あたりからぼちぼち書店に並び始めるはずである。アマゾンにはもう入荷されたようだ。

キュートな数学名作問題集 (ちくまプリマー新書)

キュートな数学名作問題集 (ちくまプリマー新書)

昨日、入荷されたんだけど、その日に在庫切れになってて、何かの不具合かな、と思ってて、念のため検索をかけたらなんとなく原因がわかった。たぶん、これだ!
404 Blog Not Found:問題、解くだけじゃつまらない - 書評 - キュートな数学名作問題集
小飼さん、あなおそろしや。というか、めっちゃありがたや。まあ、単なる不具合かもしらんが。で、小飼さんの拙著評には、こうある。

これは素晴らしい。

と同時に惜しい。

何が惜しいかというと、なぜ本書を書いたのかという問題を、あと一歩のところで著者が解き損ねているからだ。しかしこの惜しさが、本書の価値を上げている。ワイルズに成り損ねたからといっても、クンマーの価値が下がらないのに似て

いんやー、ワイルズはともかく、クンマーの名が出てくるとはさすがだ。二人とも、フェルマーの最終定理の証明にかかわった数学者であったが、19世紀のクンマーはほんのちょっとのところで、勝利を逃した。方針は全く正しかったのだ。ゼータ関数がカギであることまで肉薄してた。でも、「因数分解」(正確には素イデアル分解)にこだわったために、歴史的栄誉を逃したのだ。まあ、クンマーの時代に、フライの楕円曲線に帰着されるアイデアが出てれば、解決者はクンマーだったかもしれないが。(その辺の詳しい話は、黒川・小島『リーマン予想は解決するのか?』青土社にて。数学者が数学を「語る」ことの良さ - hiroyukikojimaの日記参照)。そんな尊敬しまくりのクンマーと比較されてめっちゃ光栄なのだね。そんなわけで絶倫な、もとい、絶妙な小飼評に答える形で、自分の反則、もとい、販促をして行こうと思う。小飼さんの業務連絡については、最後にて。
 今回の本、『キュートな数学名作問題集』ちくまプリマー新書は、要するに中学数学の問題集だ。でも、単なる問題集とはわけが違う。ぼくと仲間が、苦心して探し、なければ作る、という形で集めた名作な問題集なのである。とにかく、砂を噛むような、無味乾燥どころか、ぺっぺっとはき出したくなるくらいに不味い数学の問題を、どうにか美味しく解いてもらうための問題料理法なのである。あるときは、こじつけ気味にでも設定をユニークにし、あるときは日常生活とリンクさせ、あるときは文学とニアミスし、あるときは科学知識とコラボする。そんな問題の数々。
 二、三、例をみてもらおう。冒頭の例題はこんな問題。

次のA,B,C,Dは、お化け3匹と人間1人からなります。それぞれの証言から、誰が人間かをあてて下さい。
A:ぼくを除くと、目の数は6個だよ。
B:ぼくを除くと、目の数は5個だよ。
C:ぼくを除くと、目の数は4個だよ。
D:ぼくを除くと、目の数は3個だよ。

これは、素直に4文字4連立方程式を立てて解くわけだけど、ふつう、4文字4連立方程式なんてげんなりでしょ。やる気にならんでしょ?でも、この問題は、設定がユニークなので、これなら多少解く気になるんじゃないかな、と教材に導入したわけ。子供たちは、すごく楽しそうに解くし、解いたあとでいろいろと盛り上がるので良いのだ。ただし、解いたあとは講義がしばし中断することは覚悟の上。連立方程式の問題は、2文字2連立でさえ、たいていひどくつまらないものが多かったので、この問題をテレビのクイズ番組で発見したときは、「やった〜」とばかり、すぐにメモったぐらいだった。もう一題、お試し品として紹介しよう。かなりお勧めなのは次の問題。

昔、忍者たちは、このようにして堀の水深を測ったといわれています。
今、堀の底から生えている草が、堀の水面のA点から顔を出し、5センチ外に突き出ているとします。この草の先っぽTをつまんで草がたわまないように引っ張ってちょうど水面Bに草の先が来るようにしました。このときA点とB点との隔たりは、水平方向で測ってちょうど40センチだったとしましょう。堀の深さは何センチでしょうか。

図がないと様子がようわからん、という人は、『キュートな数学名作問題集』ちくまプリマー新書を、買って、69ページのイラストを見てちょ。イラストがいいんだ、これがまた。立ち読み厳禁。これは、ちょっとだけ難しいけど、ピタゴラスの定理で方程式を立てる方針に気がつけば、あっさり解ける。でも、解けるかどうか、ってより、「忍者の知恵」が数学の問題になってる、ってところがキュートじゃないですか?これなら、ピタゴラスの定理と展開と方程式の合わせ技という、考えようによってはうんざりする内容も、楽しくクリアできるぞ、ってもんでしょう。この問題は、大昔に雑誌『数学セミナー』に載ってたのを思い出して、本書のために導入したもの。いい教材、いい問題集というのは、いかに学習者の心理的障壁、心理的コストを下げるか、ってこと。これは、いわゆる企業のマーケティング、販売戦略と同じ発想なんじゃないかな、とさえ思う。
 さて、小飼さんは、

あと一歩進めれば、「数学問題の作り方」という、一段ステージが上の本になったのに。

という。うん、なるほど!さすがだ。でもさ、そういう秘訣はよくわからない。正直いうと、問題を作るコツは、膨大な没に腐らず、諦めない、そういう試行錯誤と執念のようなものだと思う。子供に数学を好きになってもらいたい、子供の楽しい顔を見たい、子供の心理に明らかな変化が起きるのをこの目で目撃したい、そういう熱意、としかいいようがないと思うのだ。それは、要するに、自分が惚れているオンナのどこがステキかを、迷惑なくらいに語りまくっちゃう困った男の情動と同じなのである。この問題集は、ぼくが、自分の惚れている数学というオンナを人に押しつける、非常にはた迷惑な本なのだ。ひとりよがりだといわれようがなんといわれようが、いかに数学がステキでキュートか、それをわかってもらうまでは帰さないぞ、そんな気迫で32問の問題を収録してあるから、猫も杓子もどうぞ、ってわけなのだ。
さて、最後に、小飼さんの業務連絡への業務返信である。問題は、次のもの。

ノーアウト・ランナー1、2塁。バッターが打った打球は、2塁と3塁の間の角を二等分する直線上を転がり、ショートはその球を2塁に最も近い位置で捕球した。さて、2塁に投げるべきか3塁に投げるべきか

この「野球の幾何学」という問題について、小飼さんいわく。

この問題の解を正解とするには、ノーアウトではなくツーアウトでなければならないはずです。2塁に走者がいる状態と3塁に走者がいる状態では、追加点の入る確率が違うのですから。

そっかあ。実は迷ったのですよ。ツーアウトだと、だいたいショートがゴロをとったら、ファーストに投げますよね。だから、ノーアウトじゃないといかんかな、と。でも言われてみれば、その通り。「ツーアウト」にしといて、「1塁は間に合わなそうだが、2塁でも3塁でもなんとかなりそうな場面」とでもしておくべきだったか。重版のおりに直しますから、小飼さん、その絶倫な書評で、引き続き販促におつきあいくださいな。なんの話かわからん、という人は、『キュートな数学名作問題集』ちくまプリマー新書買って、88〜89ページあたりを読めばわかるはず。立ち読み厳禁です。はい。