拙著『ナゾ解き算数事件ノート』の書評をいただきました!

 今書店に出ている中央公論11月号で、経済学者の松井彰彦さん(本ブログでは何度も紹介している学者)が、拙著『ナゾ解き算数事件ノート』技術評論社を書評してくれた。その評があまりにみごとなので、当ブログの読者に紹介したいと思う。

中央公論 2012年 11月号 [雑誌]

中央公論 2012年 11月号 [雑誌]

ナゾ解き算数事件ノート (すうがくと友だちになる物語2)

ナゾ解き算数事件ノート (すうがくと友だちになる物語2)

この本は、小中学生を読者対象とする「すうがくと友だちになる物語」シリーズの一冊である。とは言っても、もちろん大人が読んでも楽しめる水準に仕上げてある。一巻目が『大悪魔との算数決戦』(新著『大悪魔との算数決戦』が出ました! - hiroyukikojimaの日記参照)で、第二巻が『ナゾ解き算数事件ノート』(新著『ナゾ解き算数事件ノート』が出ました! - hiroyukikojimaの日記参照)だ。おおまかに紹介すると、第一巻は「冒険もの」で、第二巻は「推理もの」。松井さんには、両方とも献本しておいた。それには書評で取り上げてもらいたい、という意図はほとんどなく、松井さんが小学生の子どもさんを持っておられると知っていたので、その子どもさんにどうぞ、というつもりだった。松井さんご自身が読んでくれたのはとても光栄であり、書評で取り上げてくれたのは、感謝感激。ただ、第二巻のほうを取り上げたのは少し意外だった。ぼく自身は、第一巻のほうが「おもしろおかしく」書いたつもりで、第二巻は、どっちかというと、自分の内面や思想をわがままに表出させた物語だからだ。
でも書評を読んでみて、その意図がわかった。それは、

社会科学者ならではの視点でパラドクスを楽しく読者に語りかける。

という言葉に端的に表れている。確かに第2巻は、経済学にも関連するパラドクスが多いのだ。実際、第二話「いそがしい人々」には、貨幣経済の不思議さが織り込まれている。第三話「アイドル総選挙」は、AKBの総選挙にあやかりながら、投票のパラドクスとしての「コンドルセのパラドクス」や「アローの不可能性定理」を扱っている。第四話「イジメの犯人」は、オーマンの相互推論と共有知識をパラドクス化した話である。(ちなみに、これは様相論理の一種である「知識の論理」とも深い関係がある。実は、12月に出る新書では、様相論理を紹介する予定なのだ)。そうか、それで第二巻なのか、と納得した次第。松井さんに経済学者(同業者)として認知されているのは、誇らしいことだ(世の中では、数学の人だと思われている。まあ、数学エッセイストの業績のほうが、経済学の業績よりマシと言われても仕方ないとこがある。笑い)。
松井さんの書評で、最も共感でき、最も嬉しかったのは、次のところだ。

[パラドクスでは]迷宮に入り込んだかのような大冒険を体験できる。これは、これまで数学という言語を学んだ人だけに許される大冒険であった。
この門外不出の大冒険を、日本語という自然言語に翻訳するという離れ業をやってのけたのが本書である。

この評価は、ぼくが本書でやりたかったことジャストであるので、がんばってよかったな、と思う。しかも、ナゾ解き特別編「夜の町はネコたちのもの」に対して、

弱いものを虐げる社会悪と戦う最終章などが付け加わって、第一巻と比べてより社会性、文学性も高まった

と書いてくれた。『市場(スーク)の中の女の子』PHP研究所『向こう岸の市場』勁草書房などの文学作品も書いている松井さんにそう褒めてもらったことはとても鼻が高い。
 そう、松井さんがおっしゃる通り、ぼくは、数学という非常に便利で有用だが難解な言語を、なんとか一般の方々に自然言語を通じて伝えることを目標に本を書いている。それは、ぼく自身が、中学生の頃に数学啓蒙書のおかげで、とてもファンタスティックな知的生活を送れたことへの返礼のつもりなのだ。当時、同級生たちが、数学を毛虫のように忌み嫌い、「世の中からなくなってほしいベストワン」みたいに言っているのを、あまりに残念に思っていた。ぼくが経験しているこの「知的大冒険」を、なんとか共有したいと思って、一所懸命に同級生にアピールしたけど、表現能力の乏しさでうまく伝わらなかった。(きっと変態オタクだと思われたことだろう)。それが悔やまれて、その後、塾講師の経験などを積む過程で、プレゼン能力を意識的に鍛えた。それが、今の文筆の仕事に結びついたのだと思う。今回の「すうがくと友だちになる物語」シリーズは、その気持ちを最も露骨に表出させた本なのだ。

大悪魔との算数決戦 (すうがくと友だちになる物語1)

大悪魔との算数決戦 (すうがくと友だちになる物語1)

市場(スーク)の中の女の子

市場(スーク)の中の女の子

向こう岸の市場

向こう岸の市場