ストレイテナーを聴きながら〜変わるべきこと、変らないべきこと

 ストレイテナーの新作ミニアルバムImmortalを繰り返し聴いている。
 すばらしいアルバムだ。また、新しい境地に入りつつある。

出来がすばらしいのは、テクニックが上達し、安定し、完成の域に達しつつあるからだ 、
というのは事実だろう。
でも、うまくいえないけど、彼らは、進歩することと、初心を忘れないことを共存させ
ようとしている。売れることとこだわりを貫くことを両立させようとしている。

それは口でいうのはたやすいけど、実際はとても難しいことだ。

進歩すると、以前の自分を稚拙に思うようになる。
売れるようになると、売れないことが恐くなる。売れた数が評価だと、価値だと思う
ようになる。

でも、それは明らかに違う。

今、進歩したのは、稚拙な自分がいたからだし、今売れているのは、稚拙なときのこだ
わりを、どうやったら形にできるか、真剣に考え抜いたからだ。
このことを忘れてしまったときこそ、売れなくなり、売れない自分に我慢がならなく
なり、いいわけをして、フロントシーンから消え、音楽をやめてしまうことになろう
だろう。
成功することが無ければそれがとてもとても悲しいが、成功することは、人間を変えて
しまい、最も大事なことを失わせる可能性がある。 それは成功することのトレードオフ


ぼく自身は、とてもまだ「成功」というところまで来てないけど、それでも、10年以上前
の鬱屈とした経歴にいたとき、あの頃の苛立った毎日に比べれば、ずっと良い状況になっ
ている。そして、その頃には、ただの蜃気楼でしかなかったもののいくつかは今や、
そいつとの距離が可測になっている。
本を執筆する、という意味でも、研究する、という意味でもそうなってきている、
・・・と思う。

でも、だからこそ、あの鬱屈とした日々に見ていた蜃気楼は大事にしなけりゃいけないん
じゃないか、そう感じる。稚拙な自分がいたから、今の自分があるし、多少稚拙じゃなく
なった今だからこそ、稚拙な頃に見ていたその蜃気楼を、見失わないようにしなきゃな
らない。
 
この気持ちは、ストレイテナーの今の感じに近いのかな、と思う。
というか、そう思うことで、ストレイテナーに勇気づけてもらいたい、
そんなわけなんだ。

ストレイテナーのすごく初期の曲に Rocksteady という曲がある。
(実際、映像で見るかぎり、ベースが入っておらず、ギターとドラムのデュオだ)
はっきりと今の彼らとは力量が違う。
 
でも、どうだろう。
こだわりは、そのままのように思う。
それは歌詞に現れている。この2曲はっきりと一本の堅いロープでつながっている。
そうぼくは感じる。
今の曲の歌詞は、まるで、昔の曲の歌詞を、今の彼らが今の自分のおかれている時空
から、返歌として返しているかのようにさえ思える。

ぼくもこういう仕事がしたいのだ。
 
もはや、稚拙でいるわけにはいかないけど、いちゃいけないけど、でも、稚拙だった自分
だから持っていた憧れや疑問やコンセプトや夢、そういうものを今につなげる仕事。
そうしていつかもっとすごい論文や著作をものにしてさ、それを読んだ旧友に、
「ああ、あのとき小島さんがいってた妄言のようなアイデアは、結局こういうこと
だったんですね」
といわしめたい。

まだまだ、多くの蜃気楼は、蜃気楼のまま、ぼくの遠くに、
距離の測れないほど遠くにあるし。


 そんな風に、ストレイテナーを聴いてるわけだね。
 年末には、ライブに行くよ。楽しみにしてるぜ。